第31話 冗談
「あの二人、凄かったですねー」
ダブルデートが無事終わり、家に戻ってくつろいでいると、陽菜が突然そんなことを言い出した。
「……何が凄かったんだ?」
「なんというか……慣れてるなって」
「……ああ、そういうことか」
俺達が服を着て買い終わった後もダブルデートは続いた。
あの後はフードコートで昼食をとったり、ゲームセンターで遊んだり、もう一度洋服を見たり……と、結構充実していたのだが、このプランは二人で考えたらしいのだ。やっぱりデート慣れしているんだろうな。
「それに、二人ともとても親切でしたね。瞬先輩とか、服を選ぶ時にとても優しくしてくれました。先輩もあれくらい親切に出来たら良いんですけどね」
「うっせぇ。俺だって親切に対応することくらいできるわ」
つーか、今こうやって居候させてる時点でめっちゃ親切だろ。この同棲始めた頃なんて、完全に親切心が満ち溢れてたんじゃないだろうか?
「じゃあ、私は親切にするべき相手に含まれてないと?」
……は?
いや、だからこの状況が既に親切なんだけど。
もしかしてそれが理解できていないのか?と思うと、少しムッとした。
そして俺はぶっきらぼうに答える。
陽菜の顔が冗談を言う時のそれとは知らずに。
「……あーそうだよ。料理もできない掃除もできない洗濯もできない、そんな居候に親切にする必要ねーだろ」
俺の雑な返答が予想外だったのか、陽菜は戸惑った様子だ。
だが、俺はそれにも気づかない。
そもそも、陽菜の方を見てすらいない。
「……でも、食費は負担してますよ!」
「それだって元々はお前の金じゃねぇだろ。春明さんが稼いできた金を使わせてもらってるだけで、お前自身は何もしてない」
何で自分でもこんな言葉が出たのかわからない。ただ、勝手に口から流れ出た。
自分の耳に入ってくる声は、酷く冷たく聞こえる。
「わ、私だって!………い、一緒に寝てあげてます!」
「別に俺は頼んでねぇし。……正直に言って、狭くなるから迷惑」
「め、迷惑……」
だんだんと自分の頭に血が上っていっていることに気が付く。
理由なんてわからない。
ただ、俺は暴走した。
「……ああそうだよ。腕にくっついてくるのだって寝にくいし、邪魔」
「じゃ、邪魔…………で、でもら先輩だって、頭撫でてくるじゃないですか!あれ、き、気持ち悪いです!」
「き、気持ち悪い……」
こんな状態でも、「気持ち悪い」と言われたことにはグサッときた。
だがそれも一瞬。
それは怒りへと変化し、どんどんとその怒りは積み重なっていく。
「ええそうです!ああいうことされたせいであまり一緒にいられなかった親の代わりの甘え先になってましたけど、今となってはもう不快です!」
「……そうかよ。んならもう変に甘えてくるんじゃねぇぞ」
「誰が甘えたりなんかしますか!」
そして、お互いに怒りを募らせた俺達の口論は激化していった。
口論ならば出会った初日にもしている。その時はまだお互いのことを全くと言っていい程知らなかった。そのおかげでロクな罵倒もなく、じゃれあいと言ったレベルでしかなかったのだが、今は違う。
一ヶ月間一緒に暮らした。
一緒に暮らすと言うことは、それだけ多く互いのことを知ることになる。当然日々の生活の中での不満の一つや二つあるだろう。
それが今、一気にぶちまけられた。
一度堰を切れば、尽きるまで止まらない。
俺達は互いに不満をぶつけ合った。
「もういいです。私、自分の家に帰ります。今まで一ヶ月間ありがとうございました。もう私に二度と関わらないでください」
そして仕舞いには、ここまできてしまった。
もう引き返せない。
それどころか、俺には引き返すという発想すら無い。
「こちらこそ二度とお前と関わるのなんてごめんだ。……さっさと帰れ」
そう俺が告げれば、陽菜は箪笥の中の衣服やその他の私物をここに来た時と同じ大きなスーツケースに詰め込み、家を出ていった。
「さようなら」
☆あとがき
投稿遅れて本当にすみません。
明日は予定通り投稿すると思います。
面白かったと思った方は是非、星やハートをお願いします!
感想を頂けるとなお嬉しいです。
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