第29話 ダブルデート①

「先輩、デートしましょう」

「ああ、いい……って、で、で、デート⁉︎」


 陽菜の両親が帰ってから数日後、ゴールデンウィークの最終日。だらだらとテレビを見ていると突然陽菜が「散歩行きましょう」みたいなノリでそう言ってきた。

 恥ずかしながら交際経験無し、絶賛陽菜に片思い中の俺はそんなお誘いに思わず叫んでしまった。……我ながらダサいな。

 ってか、デートってあれだよな。男女二人で遊びに行くっていう……あれ、それって今の俺達にとって普通じゃね?


 そう考えて一瞬で萎えてしまった俺は小さく溜め息をついてテレビへと意識を戻す。


「さっき、由美子先輩からメール来たんですよ」

「ん?どうしてそこで岩屋が出てくるんだ?」

「ダブルデートのお誘いだそうですよ。私達と、由美子先輩と瞬先輩の四人でどっかに遊びに行かないかって」


 あのバカップルと遊びに、ね……。

 最近結構仲良くしてて(多分)、彼らが悪い奴らって感じもしないし、このゴールデンウィーク中は家でずっとダラダラしてるだけだったからな。行ってみるのもいいかもしれない。


「わかった。んなら行くか」

「りょーかいです。……えーっと、学校の最寄り駅に十一時集合だそうです」

「あと一時間しかねーじゃん。前日に言っとけよ」

「ほんとですねー」


 テレビを消し、自分の服装を確認。……まあ、なんとかなるか。


「あ、先輩着替えて下さいね。流石にその服でデートはちょっと……」

「なぬ」


 俺の今着ている服は、白地によくわからないけど可愛いキャラクターが描かれているTシャツと、真っ黒のスウェットだ。……あ、キャラクターって言ってもアニメとかそういう系じゃ無いぞ。ふにゃっとしたスライムのようなキャラクターだ。このトロンとした目元とか特にキュート。


「……え、それマジで言ってます?」

「当たり前だろ」

「服は他に?」

「見てみるか?」


 陽菜は俺のタンスを開いて漁る。

 そして五分後、突然ガクッと膝から崩れ落ちた。


「あー、陽菜?」

「…………」

「おーい」

「…………」

「あのー陽菜さん?」

「…………先輩、もうそれでいいです」

「…………はい」


 こちらに振り返った陽菜の顔は、絶望に染まっていた。……そんなにダメかなぁ……ちょっと傷付くんだけど。



 十五分後、陽菜が準備を終えたので俺達は出発した。

 陽菜の服装は……これ、なんていうんだっけ?服に詳しく無いからわかんないけど、とにかくめちゃくちゃ可愛い。着替えが終わって陽菜にあった瞬間、俺は硬直した程だ。……その後素直に「可愛い」って言ったらポカスカやられました。まあ、その行為も可愛いんだけど。


 そして運良く快速に乗れた俺達は、予定より少し早く駅に着くことが出来た。

 適当に改札から目に着く場所であのバカップルを待つことにする。


「それにしても……視線の量がなんか多い気がするんだが」


 一番感じるのは殺意のこもった視線。そしてその次が好奇の視線。前者は特に男性から放たれているようだ。……学校で日々殺意を感じているため、その視線に慣れてきた気がする。慣れたく無いけど。


「先輩の服が変なんですよ」

「ぐぬっ……陽菜が可愛いからだろ」

「んなっ!……もうっ!先輩のばかぁ……」


 あー言った自分も恥ずかしい……。これが自爆か。もう人の目があるところでこういうこと言うのはやめて、心の中で思うだけにしよう。


 二人で恥ずかしがっていると、改札から奴らがやってくる。


「やっほ〜陽菜ちゃん、水崎君〜」

「……水崎、お前服どうした」

「しょっぱなそれかよ……まあ?ちょっと変な感じはするかもだけどよ、こいつら可愛いだろ」

「だからってデートに来てくるのはないだろ……」

「……この人、持ってる服が全部こんなんなんですよ。折角のデートなのに、すみません」


 そう言って陽菜が頭を下げた。……そこまでダメですか?

 俺のことで陽菜が謝っているのに俺が謝らないのは変なので、一応俺も頭を下げる。


「あ〜、全然大丈夫だよ〜。今日はショッピングモールに誘おうと思ってたからね〜」


 すげぇな岩屋。予知能力者かよ。

 でも、正直助かったかな。陽菜の服装と俺の服装がマッチしてなさすぎてちょっと申し訳なかったから。 


「本当に助かります。これを機に先輩にもっと服装への執着を持たせましょう」


 じろっと陽菜が睨んできたので、俺は少し萎縮してしまった。

 幸いなことにお金は十分に持ってきていたので、服なら何着か買えるだろう。……デート未経験だから心配で結構な額持ってきたのが功を奏したな。


 ―――だから取り敢えず、瞬はニヤニヤしながら俺の脇腹をグイグイと肘で押すのをやめろ。





☆あとがき

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