第25話 家庭訪問

 翌日。

 俺は朝っぱらから家中を掃除して陽菜の親がいつ来てもいいように構えた。

 頑張って同棲許可を出すことに成功したが、破棄なんて簡単だ。ちょっとした粗相一つで破棄されてしまうかもしれない。

 なので、チリ一つ残らないように念入りに掃除し、部屋の中のすべてを整理整頓。玄関にはスリッパ(このためだけに買ってきた)を並べた。

 服装は清潔感のあるものにして、髪の毛もワックス(このためだけに買ってきた)で姉ちゃんに髪を整えてもらった。

 陽菜もかなりおしゃれな格好をしていて、気合が入っているのが伝わってくる。


 準備万端。

 あとは陽菜の親が来るのを待つのみ。


 ちなみに姉ちゃんは外で時間を潰してもらっている。

 ……べ、別に追い出したってわけじゃないからな?

 なんというか、その、避難……みたいな?……うん、避難してもらったのだ。


 そんなこんなで準備が整い、待つこと三十分。時計は二時十分を示している。

 二時頃到着予定と言っていたのでどうやら少し遅れてしまったみたいが、無事陽菜の両親が到着した。


「やあ、初めましてだね。水﨑優斗君。陽菜も久しぶりだね」

「初めまして、春明さん、環菜さん」

「久しぶりです、お父さん、お母さん」

「久しぶりね、陽菜。……それと、初めまして。あなたが水﨑優斗君ね。……一応今は同棲について認めてはいるけれど、あまりにも任せておけないようなら無理にでも陽菜は連れ戻すわ」

「っ……わかりました」


 春明さんは思ったより温和そうな人で、ちょっと安心した。

 しかし環菜さんは俺のことをどこか値踏みするような目で見てきたので、少々居心地が悪い。まあ、大事な娘を任せる相手なわけだから、しょうがないのだけれど。


 玄関からリビングの方まで移動しすぐにテーブルに着くと思ったが、どうやら部屋を見て回りたいそうで、荷物を置くと二人して部屋を歩き回っている。

 何も問題はないはずなのに、何故か緊張する。……改めて、健全な趣味で良かった。


 そのまま十分近く家の中を見て回ると、やっと椅子に座った。

 俺と陽菜の前に、それぞれ環菜さんと春明さんが座っている。……ほんと、一人暮らしのくせに四人用の机を買った自分を褒めたい。


「……さて、一通り部屋を見てみたが、どうやら君は変な趣味を持っていないようだね。少し安心したよ」

「……ええ。俺の趣味は読書なので」

「それはこの整理がされた本棚を見てわかるよ。君は本当に本が好きなようだ。……陽菜も見習って欲しいものだね」

「何度か勧めてはいるんですけどね……」

「あは〜」


 陽菜に何回勧めても、「気が向いたら読みます」と言われ、結局一回も陽菜が本を読んでいる姿を見たことがない。……本面白いのに。


「まあそれは置いておいて、陽菜との同棲するにあたっての条件を言っておこう」


 俺はゴクリと唾を飲んだ。

 今日の本題である、この「条件」。

 どんなものなのか、想像できないわけではないが、何にせよ緊張する。

 陽菜も緊張で強張っているようだ。


「そんなに硬くなる必要はないぞ。なに、簡単なことだ―――陽菜を、悲しませるな」


 確かに簡単なことだった。

 でも、簡単だからこそ、その言葉には重みがあった。


 陽菜を悲しませたらどうなるかわかっているな、とでも言うような春明さんの視線は、俺を竦ませる程厳しく、そして陽菜への愛情を感じさせた。


「……当然です。絶対に悲しませたりなんかしませんよ」

「……そのセリフが聞けて嬉しいよ。これで安心して陽菜を任せられる」


 俺の言葉で春明さんは満足したように笑った。

 環菜さんはまだ不満げな表情だが、どうやら二人で事前に相談していたのか、何も言ってくることはなかった。


「―――それと、本当に陽菜を悲しませていないか、偶にここに確認にこさせてもらおうかな。それくらいはいいかい?」

「問題ないです。……本当に今回のこと―――同棲について認めてくださり、ありがとうございます」

「いや、今までの陽菜に寂しさを感じさせていたことへの贖罪と考えたら、全く構わないさ。……もちろん、悲しませたりしたら僕の権力の全てを使って君に罰を与えるから、そのつもりでね」


 怖い。

 顔は笑ってるけど、目が笑ってない。……これは絶対陽菜を悲しませたり出来ないな。……じゃないと色んな意味で死にそう。

 ちょっと内心でビクビクしながらも頷くと、今度こそ目も笑ってくれた。


「……そういえば、優斗君は何で一人暮らしをしているんだい?……言いたくないなら言わなくてもいいが……」

「いえ、構いませんよ。……大事な娘を預けてもらうんですから、隠し事はあまりしたく無いんです」

「良い心がけだな。……それでは教えてくれるかい?」

「はい」



 ―――そして俺は、過去にあった出来事を打ち明けるのだった。





☆あとがき

すみません、書いている途中で思い浮かんだので陽菜の両親との話はもうちょっと続きそうです。

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