第23話 両親とのご対面④

「よし、それじゃあ次はうちの両親に電話しないとだね」

「「………………は?」」


 完全に終わったと思い込み脱力していた俺達に、綾乃は更なるミッションを言い渡した。……普通、この雰囲気の中でそんなこと言わないよね?まあうちの姉ちゃんは普通じゃないんだけどな。


「うわぁ……また電話かよ……」

「もううんざりです……」

「まあ、早いうちに終わらせたら気が楽になるでしょ」


 綾乃の言葉に納得してしまった俺は、素直に携帯を手に取る。

 ……よし、この電話が終わったらスーパー行って爆買いしよう。ストレスの発散に、夜はパーティだ!

 そう考えて無理矢理テンションを上げる。

 俺の親達は基本的に放任主義だが、こういう時はどんな感じで何を言われるか、全く想像できない。……まあ、陽菜のところよりは緩い……と願おう。


「……よし、電話かけるぞ」

「頑張りましょう!そして夜は騒ぎましょう!」

「え、何、パーティ?楽しそうだから私も参加する~」

「…………かけるぞ」


 なんとも気合の入らない雰囲気だな……。

 そう思いながらも、俺は電話をかけた。

 

『おう、優斗。久しぶりだな』

「久しぶり、父さん。……ちょっと大事な話するけど、大丈夫?」

『んー、こっちは母さんとテレビで映画見てるだけだから全然構わないぞ』


 おいおい……陽菜んとこの親とは大違いだな。

 心の中で小さく溜め息をつきながらも、話を続ける。


「俺、今女子で一個下の後輩と同棲しているんだ」

『おお、ついに優斗にも春が……!良かったじゃないか!それじゃあ今日はその子の紹介か?』


 ……想像していなかったわけじゃないけど、めちゃくちゃ軽いな、おい。ほんとに陽菜んとこの親とは大違いだな。向こうなんて問答無用で「帰ってこい」だったのに、こっちは「良かったじゃないか」って。全く怖くないからいいけど。

 ってか、これは紹介ってことでいいのか?一応同棲についての許可を求めたかったんだけど、もうオーケー出してるようなもんだしなあ。

 

「……んまあそんな感じ、かな?」

『よし、それじゃあビデオ通話始めるぞ!』

「え、ちょ、待って!」


 俺が突然の要求に驚いてわたわたしていると、うっかりビデオ通話申請の表示の「許可」の部分を押してしまった。

 やめようとしても時すでに遅く、画面には人の顔が映っている。俺の父だ。


『よお、優斗。顔見るのは結構久しぶりだな。たまにはこっちに帰ってきていいんだぞ?』

「……気が向いたらな」


 始めてしまったものは仕方ない。

 別に何も後ろめたいのもがないので、ビデオ通話を止める理由もないのだ。逆に辞めたら何か隠しているように思われるかもしれない。意外と父さんはしつこいからな。


『それで、今優斗の隣にいる子がそのお相手かい?随分と可愛い子を捕まえたんだな』


 姉ちゃんもそうだけど、「捕まえた」って言うのやめろよな。あんまいい意味に聞こえない。


「初めまして、先輩の後輩の、南陽菜です。今後とも末永くよろしくお願いします」


 うわぁ、陽菜、緊張してカチカチになってる。さっきほど緊張する要素ないはずなのにな。……もしかして人見知り?いや、ただのポンコツか。


『おお!礼儀正しいな!うちの奴らとは大違いだ』

「いや、俺だってやろうと思えば出来るからな。少なくとも親相手に礼儀正しくしても意味ないだろ」

「そーだそーだ!」


 後ろから姉ちゃんが賛同する声が聞こえる……って、いるのバレるだろ。喋んなよ。


『あれ?綾乃もいるのか?』

「やっほーお父さん!私は優斗の家に襲撃しに来てまーす!」

『そうか。なら父さんも襲撃しに行っていいか?』

「ダメに決まってんだろ」


 姉ちゃんはどちらかと言うと父さんの血を引いてるっぽいな。やることとかほんとに似てるから、二人揃うと面倒臭い。今だって画面に映っていないはずの姉ちゃんとテンション高く喋ってるし。

 ……まあ、取り敢えず本来の「同棲の許可をもらう」という目的を果たすか。


「……父さん、姉ちゃん、ちょっと落ち着け。……それで、今日電話かけた目的としては、父さんに陽菜と同棲することを認めてもらうってかんじだったんだけど、同棲についてどう思ってる?」


 すると一瞬にして父さんのふざけた顔が真面目モードへと変貌する。


『……正直、優斗と陽菜ちゃんと、陽菜ちゃんのご両親がいいならば俺から言うことは何もない。……ただ、同棲するからには、絶対に相手を悲しませるようなことはするなよ』

「……わかった。同棲認めてからねありがとう、父さん」

「ありがとうございます」

『いや、こちらこそありがとうな、陽菜ちゃん。こんな無愛想な息子と一緒にいてくれて』

「……先輩はいい人ですもん。一緒にいることなんて、こっちからお願いしたくらいですから」


 俺は自分の顔が赤くなっていくのを感じた。

 「いい人」かぁ……。

 俺はちゃんと陽菜にとって「いい人」になれてるんだな。


 その後は、軽い世間話に俺の黒歴史が混ざり、色んな恥ずかしい過去がバラされるという地獄のような時間を送り、電話を終えた。

 今日するべきことが全て終了し、俺は今度こそ脱力した。

 疲れた時はあったかい風呂に入りたいなぁ……って、今日温泉行く予定だったじゃねぇか!

 俺はこうなってしまった原因の綾乃を睨むが、こうして同棲していることについて両親に話す機会を与えてくれたので、今回は許すことにする。……次は無いぞ?


 今回は温泉に行くのを止めるが、いつか日帰りで陽菜と旅行に行くことは諦めないと心に誓った。





☆あとがき

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