第22話 両親とのご対面③
「はい、電話変わりました。陽菜さんと同棲させてもらっている、水﨑優斗と言います」
俺は陽菜から携帯を受け取った。
これまでの会話はスピーカーにしていたので聞いている。どうやら陽菜が諦めないので、まず俺から説得させようという魂胆のようだ。無理矢理連れて帰るという手段もあるはずなのに、それをしないのはあくまで陽菜の意見を尊重していると見て良いだろう。
要するに、全ては俺次第なのだ。
俺は小さく深呼吸をして、この会話に集中する。
『……まず最初に、君と陽菜の関係を教えてもらいたい』
先程陽菜との関係について少し考えていた俺は、一瞬悩む。
だが、変なことは言わない方がいいと判断し、感情抜きの関係を伝えることにした。
「俺と陽菜は、同じ学校の先輩後輩という関係で、一応今は同棲相手です。それ以上でも以下でもありません」
『そうか……。それにしても、なぜ同棲などしているのだ?その言い方だと、付き合っているわけではないのだろう?』
さて、これはどこまで言っていいのだろうか?
陽菜は一人暮らしができないことがバレないようにこの同棲を提案したはずだ。ここに至る経緯を言うのはこの同棲のそもそもの意味を失う。
言ってもいいか聞くために陽菜の方を見るが、「ここは私が話します」と言って、先程綾乃にしたのと同じ話をした。
同じような話をしたので、当然気になる部分も同じようだった。
一通り陽菜が話し終えると、春明さんはしばらく無言になっていた。
『……陽菜が君と暮らすことになった経緯はわかった、水﨑優斗君。……だが、だからといって君の家で陽菜と一緒に暮らすのを容認することはできない。君だっていくら娘が慕っていようとも、全く知らない年頃の男子と一緒に暮らすのを認められないだろう?』
「…………そうですね。流石に心配です」
『だから、君の方から陽菜を説得をしてくれないかい?君は趣味にお金を使いたいと言っていたな。少しだが、君にお金をあげることもできるぞ』
……まさかお金で釣ってくるとは……。娘の説得に金使うなんて、親としてどうかと思う。親なら最後まで粘れよ。
「いや、その提案には乗れません。確かに最初はそのお金目当てで居候させました。でも、今は違います。たとえお金がもらえなくたって、この暮らしを続けたい。……だから、俺はその提案には乗りません。……お願いです、このまま陽菜と同棲させてください」
「私からもお願いです。私を、先輩一緒に生活させてください」
顔も見えるはずがないのに、俺達は何もない空間に向かってお辞儀をした。陽菜も同じように頭を下げている。
握っている拳は強く握られていて、陽菜の必至な思いも伝わってくる。俺もその思いに自分の思いを重ねるために強く握り返す。
長い時間が過ぎた。
もちろん体感時間が長かっただけで、実際の時間は一分も経っていないだろう。
それでも「長い」と感じてしまうほど緊迫した時間だった。
『……………………はぁ。君のことはわからないが、陽菜がここまでお願いしてくるのは初めてなんだよ。あまり自己主張しない子で、従順な子だと思っていたんだがね……いや、それも今考えれば我慢させていただけなのかもしれないな』
もしかして、と淡い期待が生じる。
流れとしては良い……気がする。まだわからないが。
俺は春明さんの次の言葉に全神経を集中させるかの如く願った。
『…………いいだろう。陽菜と君が同棲することを認めようじゃないか』
「「えっ!」」
『ちょっ、春明さん!いいんですか⁉こんな知りもしない子に陽菜を任せて』
『もちろん条件はある』
春明さんは観念したように同棲を認めたが、やはり条件は付くよな。流石に同棲するための条件くらいは呑む。向こうとしても同棲を許しているだけでだいぶ妥協しているのだから。
「その条件とは、何ですか?」
『取り敢えず、明日は家にいるかい?』
「まあ、特に何もないので俺も陽菜も家にいると思います」
『それなら、明日君の家に伺わせてもらう』
「「『え?』」」
ここ最近で、一番驚いたかもしれない。
……いや、ついさっきの姉ちゃんとの邂逅もかなりビビったからな。同じくらいビビってる。
『春明さん!あなた明日も仕事あるでしょう!』
『一日くらい休んでもいいだろう。最近はずっと出社しているし、それくらい問題ない。もしなんかあったとしても、まあ何とかなるだろう』
わぁお、なんかすごい投げやり感あるな。
まあ、こちらとしても同棲が認められるのならばなんでもいい。何度だってうちに来てもらって構わない。
「わかりました。住所は陽菜に送ってもらいますので」
『よろしく頼むぞ。ではまた明日会おう』
「「はい」」
そして、通話が終了する。
「「はぁぁぁああ~~~~」」
通話が終わったと意識した瞬間、二人して大きな溜め息が出た。ここ最近で、一番の大きさだろう。
緊迫した雰囲気から解放され、しかも同棲を認められたのだ。
俺のテンションは上がっていた。もちろん心の中で。
「いや~二人とも良かったねぇ~」
後ろから聞こえてきた聞き慣れない声に、バッと勢いよく振り返る。
「……あの、『誰⁉』みたいな感じで振り向かれるとちょっと傷つくんですけど」
「あ、ごめん姉ちゃん。存在忘れてた」
「あ、お義姉まだいたんですか」
「ねえ、私の扱いひどくない⁉裁判所に扱いがひどいって訴えちゃうよ!」
部屋には三人の笑い声が響き、先程までの緊張はすっかり消え去った。
☆あとがき
面白かったと思った方は是非、星やハートをお願いします!
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