第20話 両親とのご対面①
「……電話って言われても、なんて言えばいいんでしょうか?ええっと……先輩のお姉さん?」
「ああ、そういえばまだ紹介されてなかったわね。優斗、このスーパー天才美少女の私を陽菜ちゃんに紹介して差し上げて」
まるで神にでもなったかのように、両手を上げて満面のドヤ顔をしていている姉を呆れた目で見て、俺は紹介して差し上げる。
「俺はそんな完璧な人を親戚に持ってないぞ。……これは俺の姉の綾乃だ。大学二年生で通ってる大学の近くで一人暮らししてる。確かに頭は良いが、まあ、いつもこんな感じだ」
「……先輩も大変ですね」
陽菜、そんな可哀想な人を見るような目で俺を見るな。お前も大概なんだからな。この二人が仲良くなったら、もう俺の手には負えなくなる予感しかしないぞ。
「それで、綾乃さん」
「お義姉さんでいいわ」
「いやよくないから」
「じゃあお義姉さん」
「やめろ陽菜」
「何て言えばいいと思いますか?」
「綺麗にスルーしないで?」
「そうねぇ……」
「姉ちゃんも無視しないで?」
あ、もう手に負えない。
泣くよ?可愛い弟と大好き(勝手な妄想)な先輩が泣いちゃうよ?
そんな気持ちを込めた視線をチラッと彼女たちに向けるが……無視。
俺は不貞腐れたので、とぼとぼとベッドに向かい、寝っ転がった。
「あ、優斗。逃げないで戻ってこーい。戻ってこなかったらここで優斗の黒歴史叫ぶよー」
「何でしょうかお姉さま」
「うわ、はや」
俺は一瞬で元に位置へと戻る。
……ふふ、男は黒歴史隠蔽のためならばなんだってできるのさ。
昔は「お姉ちゃん大好き!」って感じだったから、色々弱み握られてんだよなあ。……記憶ってどれぐらい殴れば飛ぶのかな?今度試してみよう、姉ちゃんで。
「んーと、何言えばいいかでしょ?……取り敢えず最初に、『学校の先輩の家に居候させてもらってます』って言います」
「「ふむふむ」」
「それから、『私はこれからもずっとその方と一緒に住みます』と言います」
「「ふむふむ……ん?ずっと?」」
「で、最後に優斗が『娘さんを僕に下さい』って言って、はい終了~」
「「終わるかボケェ!」」
だよねー。うん、なんとなくわかってた。
ちょっと期待していた俺がバカだった……。
陽菜も同じような表情だ。わかったか、陽菜。これが水﨑綾乃だ。
「先輩、この人はダメです。私達で考えましょう」
「そうだな。これはもうダメだ」
「ちょ!二人とも私の扱いひどくない⁉」
「当然だろ、あんな幼稚園児レベルのプラン」
「ほんとにこの人天才なんですか?」
陽菜さん、いつになく言葉がキツイですね……。
だが、俺からしたらブーメランだぞ。本当にあのポンコツさで学年主席なのか、正直疑っているからな。
俺達にぼろくそ言われた姉は、「二人ともひどい~」と言いながらベッドに仰向けになっている。俺の真似かよ。戻ってこなくていいからそのまま静かにしていてほしい。
「それで、どうしますか?お義姉さんが不貞腐れている今なら、電話しなくても何も言われなさそうですけど」
「……いや、確かに姉ちゃんの言う通り親に言わないでこうやって暮らしているのはあんまりだと思う。俺達は全然良くても、親からすれば心配だろうし」
「ですよねー。……それじゃあ、何て言いますか?」
「……まあ最初は姉ちゃんの言う通り今の状況を伝えるんだな。それで、これからも同じように生活していきたいって言えばいいと思う。それからは……まだどうなるかわからん。もしかしたら簡単に許可が下りるかもしれないし、問答無用で戻されるかもしれない」
恐らく、後者の方が確率は高いだろう。
それでも、機会が訪れてしまったならば、やはり包み隠さず言うべきだと思う。
たとえその結果で陽菜と別れることとなろうとも、「しょうがない」と割り切らなければならないのだ。俺達の関係は所詮、利害の一致が根っことなった、薄っぺらいものなのだから。
「……もし先輩と別々になったとしても、私は絶対にここに戻ってきますから」
「えっ?……それはどういう……」
いきなり陽菜が真剣な表情で言ってくるものだから、俺はそれがどういうことかわからなくなった。
どういうことか聞こうにも、陽菜は言うつもりはなさそうだ。今の発言なんてなかったかのようなすまし顔でそっぽを向いている。
それでも、赤くなった耳は隠せていなかった。
どうしたのだろう?陽菜はそんなことを言うようなイメージじゃない。
もう一度、彼女のセリフを思い出す。
『もし先輩と別々になったとしても、私は絶対にここに戻ってきますから』
俺はその発言に、かなりの決意が感じられた。
「戻ってくる」
もはやこの家が自分の居場所と主張しているような言い方だ。
何故そんな言い方を?
この一ヵ月過ごしてきたから、という理由ではないと俺の勘は訴えている。
「もしかして」と想像を巡らせるが、すぐに首を振って想像を霧散させる。
―――陽菜が俺に好意を持っている、などということはない。
俺達の関係は利害が一致して、たまたま成り立っているだけの関係。そのはずだ。
互いにそれ以上の感情は持ち合わせていない。
……でも、本当にそれだけなのか?
思えば、この生活が始まってから毎日陽菜と一緒に寝ている。
いつも腕を抱かれ、朝起きたら腕だけではなくなっていることもざらにある。
最初のうちは恥ずかしがっていたにもかかわらず、最近は朝抱き着いていても動揺しなくなっていた。
この「抱き着く」という行為は、相手に好意を持っているから行うはずである。
とすると、俺は陽菜に好意を持たれているということになるのか?
わからない。
俺はただの冴えないぼっちだ。好きになる要素などありやしない。
なのに、行動は好意を持っている相手へのそれ。
陽菜は俺のことをどう思っているのだろうか。
聞きたい。
でも、聞いてしまえば今の関係が壊れるかもしれない。
―――俺は臆病だな。この関係を壊したくないがために迷っている。
陽菜が俺のことを何とも思っていなかったとしたら、俺のただの思い上がりだったということで落ち着く。
だが、もし俺のことが好きだったならば。
俺達の関係はどうなるのだろうか。
―――俺は陽菜のことを、どう思っているのだろう?
「―――ぱい。先輩!」
「おお。すまん、ぼーっとしてた」
「もう、しっかりしてくださいよ。……それじゃあ、今から電話かけますよ」
「ああ、わかった。……健闘を祈る」
「戦うわけじゃないですけどね。……行きますよ」
そして陽菜は両親へと電話をかけた。
俺が陽菜のことをどう思っているのか。
正直に言って、自分でもわからない。
好意を抱いているのか、いないのか。結論はすぐに出なかった。
それでも、取り敢えず今はまだ―――
―――陽菜と一緒にいたい。
☆あとがき
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