第18話 旅行計画
「先輩!旅行しましょう!」
陽菜との同棲が始まってもうすぐ一ヵ月となり、結構この生活に慣れてきたゴールデンウィークの初日。昼間からテレビの前でやることもなくただごろごろしていた俺に、陽菜はそう切り出してきた。ちなみに陽菜も俺と同じ状態だ。
「……旅行?どうした急にそんなこと言いだして。変なもの食ったか?」
「……確かに変なもの食べましたけど!賞味期限の切れたアイスを!」
「食べたのかよ。ってかそんなの良く見つけたな。俺でも存在を忘れてたのに」
「ふふん。冷蔵庫の中のアイスは全て私の支配下にあるのです!」
「じゃあ賞味期限も把握していたよな?」
「ギクッ!……って、そうじゃなくて!」
陽菜は起き上がって俺の前に来ると、仁王立ちししながら指を差してきた。
「先輩!一緒に旅行行きましょう!」
なんかデジャブ。
……ああ、校門の時のか。それじゃあ……
「人を指差すなよ」
「いーや、ここは敢えて指を差させてもらいます!」
払って、差す。
今回もこれを繰り返すのか……。
そう思ったが、あの時とは違う。俺達の関係性は進化している……というより、お互い遠慮が無くなっている。陽菜はもともとだけど。
俺はその指を掴んで……本来曲げる方向とは逆の方向に曲げた。
「イタッ!イタタタタッ!ぎ、ギブです先輩!ギブギブ」
「じゃあもうするなよ。……それで、なんでそんな急に旅行行こうなんて言い出したんだ?テレビの影響か?」
「いや、違いますよ。ほら、今日からゴールデンウィークじゃないですか」
「ん?ああ、そうだな」
何当然のこと言ってんだ?話のつながりが分からん。
「ゴールデンウィークって一応長期休みじゃないですか」
「……まあそうだな」
「長期休みって言ったらやっぱ旅行じゃないですか」
「…………まあ、そうだな……」
「それで、旅行って言ったら、温泉じゃないですか」
「………………いや、飛びすぎじゃない?どっから温泉出てきた」
陽菜は「えへへ~」と笑っている。それ、ごまかしてるつもりなのかな?
……それにしても、温泉ねぇ……。
最後に行ったの、というか一回しか行ったことない気がするが、それは多分小学校何年かの時だな。うちの家族は旅行とかみたいな実体のないものより、食べ物みたいな実体のあるものの方が好きだったから、温泉もそこの食べ物目当てで行ったんだっけ。
正直、また温泉に入りたいとは少し思ったが、いろいろと問題がある。
「行くこと自体は良いと思う。俺もちょっと温泉に入りたいなとは思ったからな」
「ほんとですか!じゃあさっそく……」
「だが!そのための金はどうする?温泉旅館は泊まるのに結構なお金がかかる。それに、そもそも未成年だけではホテルにも宿泊できないぞ」
「……え、何泊まる前提で話してるんですか」
「…………は?温泉行くなら泊まる必要あるだろ」
「……ああ、知らないんですね。日帰り温泉のこと」
陽菜は少し呆れたような表情をしながらスマホをいじり、何かのサイトを見せてきた。
「これ、ここから比較的近いところにある温泉街の宿なんですけど、ここ見てください」
そう言って陽菜が指差している場所を見る。
その旅館の温泉についての説明が書かれており、その下の方には「日帰り入浴可」とあった。……ほんとにあるんだな、日帰り温泉。
「へぇ~、確かにこれならそんな金かかんないし、行ってみるのも良いかもな」
「じゃあ、そうと決まればさっそく用意始めましょう!」
全く、気が早いな。
陽菜は既に部屋の個室に向かい、服を選び始めている。
「って陽菜。いつ温泉に行くんだ?まさか明日とか言い出さないよな……?」
「え、もちろん明日ですよ。ほら、『思い立ったが吉日』とかいうじゃないですか」
「いや、だとしても旅行ならもっとほら、こう……泊まる宿考えたり予約したりって……」
「だーかーら!日帰りなんですよ?用意するものとかそんなにないですから、早いうちに行っちゃいまししょうよ!」
「ぐぬっ……確かに」
俺は陽菜と同棲を始めてから一気に回数が増えた溜め息をつきながら、陽菜と一緒になって明日の用意を始めるのだった。
☆あとがき
面白かったと思った方は是非、星やハートをお願いします!
感想を頂けるとなお嬉しいです。
※新連載『たとえハーレムな状況であろうとも、俺は貴女に好きと伝えたい。』始めました。
そちらも読んでもらえるとありがたいです。
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