第11話 同棲ノ掟

 目が覚めると、外はすっかり暗くなっていた。

 どうやら寝ていたようだ。

 時計を見ると、今は七時のようだ。ゲームを終えたのが四時頃だったから、大体三時間くらい寝ていたのだろう。……結構寝たな。

 意識がはっきりしてくると、膝の上におもりがあることに気が付いた。

 ……そうだ、ゲームに負けて陽菜を膝枕することになったんだったな。


 下を見ると、さっきまでの俺と同じように寝ている陽菜がいた。……女子の寝顔見るのとか初めてかも。

 

 しかし……やっぱり可愛いな。

 陽菜の顔は美人というより可愛い寄りなので、寝顔はすごくあどけなく、とても可愛いのだ。なんというか……庇護欲がそそられる。


 そんなことを考えながらぼーっと頭を撫でていると、陽菜が身じろぎした。起こしてしまったな。


「……ん…………痛っ!」


 そんな寝起きの陽菜さんは、寝返りを打って俺の膝から落ちた。流石ポンコツ。


「陽菜、大丈夫か?」

「あ……おはようございます、先輩」


 打った頭をさすりながら陽菜は起き上がった。

 しかし、目が合ったかと思うと慌てたように目をそらされた。しかも、髪の毛の間から覗く耳は赤く染まっている。……もしかして俺、寝てる間に陽菜になんかしちゃったか?


「あのー陽菜さん?俺寝てる間になんかしちゃった?」

「へっ!い、いや!先輩は関係ないですよ!これは単に先輩が……ってやっぱり先輩のせいです!責任取ってください!」

「はあっ!え、ほんとに俺なにしたの?変なことしたのなら謝るが……」

「いえ!先輩は何もしてません!……でも先輩のせいです!」


 全く分かんない。何かしたなら本当に言って欲しいんだが……。

 それからしばらく陽菜はこの調子だった。結局何があったのかは教えてくれなかったけど、俺が何かしたというわけじゃないようだ。一応安心。


 陽菜が落ち着いたので取り敢えずこんな時間だし、ご飯を食べることにした。

 昼ご飯として作ったが陽菜がやけどして食べなかったやつだ。だが……


「……先輩、麺、すっごく伸びてますね」

「……そうだな。うどんは伸びるんだった……」


 作ってからかなり経っていたので、麺が伸びてしまっていたのだ。

 味はそこまで変わらなかったが、結構お腹に溜まってしまった。

 それでも、一応二人ともぺろりと完食できたのだが。


「よし、それじゃあこの家のルールを決めよう」


 緊張をほぐすためにゲームをしたのは、これを考えるためでもあったのだ。

 おかげで俺達は普段通り、と言うより今朝通りの会話ができるようになった。


 俺は部屋に会った画用紙を机に広げた。ついでにペンも持ってくる。


「今から考えるルールをここに書いて、どっかに張っておくことにしようと思うんだが、何か異論はあるか?」

「確かにそれがいいですね」


 そう言うと陽菜は画用紙の一番上に書き込み始めた。

 何を書いているのか気になるので、陽菜の手元をのぞいてみる。


『同棲ノ掟』


 うーん、同棲っていうのは理解していたつもりだけど、改めて文字にすると、なんか恥ずかしいな……。まあ、同棲しているからと言って何かするつもりもないし、することの内容に今からルールを定めるんだからな。

 それにしても、よく「同棲」って書けたな。普通恥ずかしくて書けないだろ。

 しかし、チラッと向かいに座る陽菜の顔を見ると流石に赤くなっていた。そんなに恥ずかしがるなら書かなければよかったのに……。


「それで、まず最初は何だろうな。危険度というか、あってはならないことを防ぐためのルールは絶対必要だから、考えやすそうだしそれから考えるのでいいか?」

「……私、先輩にだったら何されてもいいですよ……?」

「……年頃の女の子がそんなこと言わない」


 俺は陽菜の頭にチョップを下した。

 ……不覚にも陽菜のさっきの発言にドキッとしたのは秘密だ。

 そして、ドキッとしたせいで陽菜が「本当なのに……」とつぶやいていたのには気付かなかった。


「……それで、まず危険度が高いのは風呂だよな。一応風呂の扉に鍵ついてるからそれでいいとは思うが……」

「それじゃあ『同棲ノ掟・其の一』は『お風呂に入るときは鍵をかける』って感じでいいですか?」

「お前がそれでいいと思うのならばいいと思うぞ。どっちかって言うと見られたら困るのはお前の方だろうし」

「まあ普通はそうですもんね……私はこれでいいと思います」


 そう言って画用紙に書き込んでいく陽菜。

 ……それにしても「普通は」ってなんだよ。陽菜は普通じゃないのかよ……。

 いかん。変な妄想をしそうになった。今のは忘れよう。


「他には何ありますかね?」

「そうだな……そういえば陽菜、洗濯は出来るか?」

「え?できるわけないじゃないですか」

「……そんなに自信満々に言うことじゃないからな、それ」


 ……しかし、それは困ったな。

 もし洗濯が出来ないのであれば俺がやることになってしまうのだが、それは陽菜の衣服も含むのであって……え、これどうしようもなくない?


 ……ならば、最終手段だ。洗濯機を使おう。

 それならば不必要に陽菜の服に触れる必要がないな。流石に干すくらいは陽菜にでもできるだろう。というか失敗のしようがない……はず。

 

 取り敢えずこのことは今は置いておこう。

 さて……他にルールを作るとすれば何があるだろうか……。


 ………………。


「……なあ陽菜、思ったより必要なルールってないんだな」

「……先輩、今気付きましたか」


 


そして俺達の「同棲ノ掟」は決まった。


同棲ノ掟

・其の一 お風呂に入るときは鍵を閉める。

・其の二 任された仕事はしっかりと行う。

・其の三 用事があって帰りが遅くなる時は報告する。

・其の四 許可が出るまで陽菜は家事禁止。

・其の五 嫌なことがあればいつでも出ていってよし。

・其の六 同棲している間は、私達は家族である。





☆あとがき

ちょっと解説。

「同棲ノ掟・其の六」は陽菜の要望で優斗が押し切られた感じです。優斗は陽菜にはかなり甘いです。

※其の四を追加したので、其の四は其の五に、其の五は其の六にずらしました。


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