第9話 せんぱい① (陽菜視点)

 新学期早々、またやらかしちゃった……。


 私、南陽菜はポンコツだ。

 勉強はできるのに、日々の生活の中ではいつも肝心なところでミスしてしまう。

 今日だって、新入生代表の挨拶などがある始業式の日なのに定期を忘れてしまった。……いや、ポケットに入れた覚えはあるから、ここに来る途中のどっかで落としたのかもしれない。

 登校初日から遅刻しちゃうのか……先生とか、いろんな人に迷惑をかけちゃうんだろうな。

 

 そんなことを考えているせいで、朝からテンションは低いまま。

 高校生活なんて、どーせ中学の時みたいに楽しくないんだろうな……。


「すみません、もしかして南陽菜さんですか?」


 そんな中、私を助けてくれた人がいた。

 見た目は普通。カッコいいかと聞かれても困る程度。

 でもそのヒーローは、この時の私の目にはちょっとカッコよく見えたのだ。

 

 そして、その人が先に改札を通っていこうとしたを見て、思わず引き留めてしまった。

 去り際に残したセリフ。それを不覚にも「面白い」と思ってしまったからだ。

 

 セリフ自体はそこまで変なものでもなかっただろう。

 言った人が問題だった。

 別に彼に似合わない気障なセリフを言っていたからではない。……正直に言えば少し思ったけれど、そこではない。

 

 表面を取り繕って、他人からよく見られようと思うことはあるだろう。その理由は大体下心から来る。美人、またはイケメンと仲良くなりたいだのといった理由だ。

 実際中学校生活ではそのように男子に絡まれたことは数えきれないほどある。どうやら私は他人から見ると美人らしい。

 そして、その男子たちはつまらないことで見栄を張ってきた。正直に言えば、とてもウザかった。

 しかも男子に囲まれているせいで、女子からは「優等生ぶってるビッチ」だとか噂された。事実無根だ。私は異性に興味がそもそもなかったのに。

 

 そんな中、彼は定期のことで恩着せがましく迫ってこようとしないし、くさいセリフを言った挙句目の前でドヤ顔をしている始末。いろいろ台無しだった。

 

 それなのに私は、興味を持った。

 

 今までの男子とは違う。

 下心もなく、それどころか他人に関心のない人だ。

 

 知りたい。

 どうして迫ってこないのか。

 どうして人に関心を持たないのか。

 どうして……一人でいて寂しくないのか。


 そんな疑問が次々に湧いてきて、気づけば手を掴んでいた。


 異性と接したのはいつ以来だろうか。

 小学校高学年ではもう手を繋ぐといった行為はしていないだろう。

 久しぶりの異性の感触。

 不思議と嫌ではなかった。



 

 登校時間を共にし、私の興味は増える一方だった。

 

 途中「可愛い」と言われた時があった。

 何度も言われ慣れた言葉。ある意味呪いの言葉ともいえるその言葉は、先輩の口から聞くと嫌悪感よりも恥ずかしさが先に出てきてしまった。……あれだけ攻撃してしまったけど、痛くなかったのだろうか。今更心配になってきた。

 

 先輩に「可愛い」と言われた時、嘘をついてしまった。

 友達なんていない。

 別に高校デビューなんてしていない。地味だったわけじゃないから。

 それでも……下心のない「可愛い」は、とても嬉しかった。


 始業式が終わりクラスへ行けば、まあ予想通りだった。


 女子から連絡先を教えてほしいと集られ、もちろん男子からも下心満載の言葉をもらう。正直気持ち悪い。「可愛い」と言われるたびに、ゾワッとして昔を思い出す。

 男子からいろいろ聞かれる時間は、苦痛以外の何物でもなかった。

 

 でも、そのたびに先輩について考えると心が落ち着いた。


 気持ち悪い質問で精神の疲労を感じた私は、先輩に会うのが待ちきれなくなり校門で先輩を待つことにした。

 待つこと数分、やっと先輩がやってくる。一人だ。

 

 私は勇気を振り絞って声をかける。

 ……無視。

 あ、聞こえなかったのかな?

 もう一回……ってなんでこの人一人で頷いてるんだろう。

 それを突っ込んだら、やっと私のことに気が付いてくれた。




 そして、一緒に帰ろうと思ったのに、どうしてこうなってるんだろう?

 周りからはすごい視線を感じる。……まあ校門前であんなことすれば目立つよね……ごめんなさい、先輩。

 っていうか、あんな大勢の前で「先輩と喧嘩みたいなことをして楽しい」とか言っちゃった……恥ずかしい……。


 取り敢えず一緒に帰るという当初の目標は達成できた。

 やっぱり先輩といると楽しいな。

 無理に優等生らしくする必要もないし、気軽に接せる。

 ……でも、そんなポンポンと「可愛い」って言われると心が持たない。一回言われるたびにドキッとしちゃう。嬉しいけど。

 ああ、こんな時間がずっと続いてくれればいいのに……。

 そう思っていた私に、神様は味方してくれたのかもしれない。


「え、先輩って一人暮らしだったんですか!」


 すごいな、家事とかもできちゃうんだろうな……。先輩そういう女子力みたいなの高そうだし。

 ……いいこと思いついた!

 先輩の家に居候させてもらおう!

 


「先輩お願いです!先輩の家に居候させてください!」





☆あとがき


今日から一日一話更新にします。

ストックがあれば大体五時頃、なければ深夜になるかと思います。

投稿できない日が出てくることがあるとは思いますが、なるべく五時に投稿できるよう頑張るので、面白いと思った方は是非、星やハートをお願いします!

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