第7話 うどん

 そして二十分後。

 四人がけの机に二人分のうどんが並んだ。……今更ながら、机でかいな。なんで一人暮らしなのにこんなにでかい机にしたんだよ、昔の俺。友達なら来ないぞ。……今はなぜか居候が一人いるけど。


 俺と陽菜はうどんを挟んで向かい合わせに座っている。

 因みに陽菜は俺がうどんを作っている間、ずっと部屋を歩き回っていた。俺の自慢の本棚にも感想無し(ちょっと反応を期待してたのに……)。緊張をほぐすためかは知らんが、時折柔軟のようなポーズをとっていたのを見かけたから、やっぱり緊張してるんだろうな。


「それじゃあ、頂きます」

「……頂きます」


 個人的には結構上手くできたと思う。塩加減も丁度良く、出汁からとったおかげでしっかりと味が出ている。


 陽菜の反応はどうだろうか。


 うどんから顔を上げ、陽菜を見るが……うん、なんとなく予想はしていた。


「あっつ!」


 熱々のうどんで舌をやけどしたようだ。

 先程までは大人しくしていたためポンコツ要素のない陽菜だった。最早それはただの美少女である。陽菜であって陽菜ではない。まさに借りてきた猫だった。……小動物っぽいところとか、猫舌(もしかしたら普通にポンコツなせい)なところはまさに猫だな。ちなみに俺は犬と猫では猫派に属するので、ちょっと猫を飼いたいと思ってたから丁度良いかも?

 

 おっと、脱線したな。

 つまり、こうやってポンコツな面を見せられると何故だか安心するのだ。

 俺は未だ痛むらしい舌を出して犬のようにハフハフしている陽菜に氷を入れた水を渡した。

 ついでに冷ます用の取皿も渡すと、陽菜はすぐさま水に舌をつっこんだ。


「*$&%+#¥%&$」


 そしてその状態のままなんか言っていた。

 少なくとも日本人の理解できる言語ではないようだ。……もしかして陽菜は宇宙人だった⁉……いや、猫だな。

 とまあ冗談は置いておいて、恐らく状況から推測するに「ありがとうございます」といったところだろう。

 

 暫くすると水から舌を出したが、まだ患部が痛むようだ。火傷してからまだ箸が動いていない。確かに口の中火傷するとかなりの時間ひりひりするよな。

 この状態ではうどんを食べるのはつらいだろう。

 なので俺は後々決める必要のあったことについて話し合うことにした。


「陽菜、まだうどん食べれなさそうなら今のうちにこの同棲?生活でのルールとか決めちゃわないか?」

「……でもそれだと先輩の料理が冷めますよ」

「また温めなおせばいいだろ?どうせなら美味しく食べてもらいたいし」


 すると一瞬迷うようなそぶりを見せたが、説得できたようだ。


「それなら、また後からいただくことにしますね」


 そして陽菜はうどんの入った器を横にずらす。

 自分だけ食べ続けるわけにもいかないので、俺も同じように器をどかした。

 ……それにしても、この緊迫した感じの雰囲気、どうすれば解けるだろうか?

 残念ながら俺の部屋には緊張ほぐせるようなものなど……なくもないか。


「それじゃあ、まずゲームでもするか」

「え?話し合うんじゃないんですか?」

「まあそうなんだが……お互い緊張したままだとやっぱり気まずいだろ?だからゲームで緊張を解けられればなって」

 

 ゲームで本当に緊張がほぐれるかは知らないが、やってみる価値はあるだろう。

 幸いというべきか、うちにあるゲームは対戦型。……昔、ここに学校でできた友達を誘って一緒にゲームしようと思って買ったんだったな。……ああ、思い出しただけでむなしくなってきた。

 まあ何にせよ、今こうやって活躍できる時が来たのだから良かったのだろう。昔の自分に感謝だな。


「確かにそれはいい考えですね。ちなみにどういったゲームなんですか?私ゲームとかあまりやったことないので上手くできないと思うんですけど、それでも大丈夫そうですか?」

「たぶん大丈夫だろうな。今からやろうと思ってるのは某ゲーム会社のレースゲ-ムだから、操作も簡単、初心者でも十分楽しめるんじゃないか?」


 実際に俺も操作説明書とかはあまり読まないでも理解できた。

 一応学年一っぽい陽菜の頭なら理解することなんて容易いのではないだろうか。


「それじゃあ、そのレースゲームやりましょう!」


 お、なんかちょっとテンション上がってないか?

 この調子で緊張がほぐれるといいな。

 俺は椅子から立ち上がり、そのゲームを起動させるべく動いた。

 ……最近は俺もゲームとかやらなく無くなっていたから、久しぶりだな。機械にもほこりがかぶっていた。

 試しに電源を付けたが、問題なく動きそうだ。

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