第2話 校門での決闘
「あっ、やっと来ましたね、先輩!」
なんか聞こえた。
多分ティッシュでも配ってるんだろう。いいことだ。
だがしかし、俺にはポケットティッシュが不要だ。何故なら俺は、リュックサックに三個、ズボンに一個、胸ポケットに一個、計五個のポケットティッシュを持っているのだ!
ティッシュは非常に便利である。
応用性が高く、色々な場面で使われる。
そして、軽くて持ち歩きやすいときた。
ティッシュこそ、最強なのだ!
「………先輩、一人で何も言わずに頷いていると、ただの変質者です」
ハッ!俺は何を!
横を見ると呆れた目の陽菜がいた。……まさか陽菜にまで呆れられるとは!屈辱だ……。
「よ、よう陽菜、どうしたんだ?」
「やっと気付きましたね!……全く、先輩ときたら頭脳明晰、容姿端麗の完璧超人の陽菜ちゃんのことに気付かないなんて、陽菜ちゃんファン失格ですよ?しっかりしてくださいね!」
自己評価高いなお前。もしかして朝褒めたことで調子乗ってるのか?
「あ、スミマセン、人違いみたいです」
「え、いや、違う!違くないです!先輩のよーく知ってる陽菜ちゃんですよ!」
「んー、俺の知ってる陽菜は、ポンコツで、例えば始業式の新入生代表挨拶でそのポンコツっぷりを活かした、頭のネジが外れてるんじゃないかってレベルのスピーチをしたやつなんだが」
「あ、はいはい!それ私です!そのどうしようもないポンコツ、私以外にありえないです!」
何でこんなに元気なの?黒歴史になるだろ、普通。
「……自覚はあるようだな。それで、そのポンコツ陽菜さんはどうして校門なんかで俺を待ってたんだ?」
「お、よくぞ聞いてくれました!」
そして陽菜は俺の前に出てきて、指を指してきた。おまけにドヤ顔してるところがイラっと来るな。
「先輩!一緒に帰りましょう!」
俺はその指を躊躇なく払った。
「人を指差すなよ」
「いーや、敢えて指を指させてもらいます!」
陽菜は払われた指を戻してきた。
「いや、敢えてとかじゃなくて人としてやるなよ」
再び俺は指を払う。
「いーじゃないですか、先輩なんですし」
陽菜が指を指す。
「だからこそ距離感考えろよ」
払う。
「先輩と私の仲じゃないですか」
指す。
払う。指す。払う。指す。払う。指す。払う。指す払う指す払う指す払う指す払う指す払う指す払う指す払う指す払う指す払う指す払う指す払う指す払う指す払う指す…………。
「はぁ、はぁ………一旦休憩だ」
「はぁ、はぁ………そうですね」
陽菜との決闘は五分程続き、お互いが疲弊したため休戦となった。
思わず地面に座り込んでしまったが、隣の陽菜も同じように座っていたので別にいいだろう。
「こーゆうの、久しぶりです。小学生の頃にじゃれた時以来ですかね……」
「……多分俺もそんな感じだな。小学校時代しか友達いなかったし」
「……先輩ぼっちだったんですね」
「……友達を敢えて作らなかったと言え」
「……ま、そんなところだろうとは思ってましたけどね。こんな感じで先輩と喧嘩みたいなことしてみて、私、楽しかったです。こんなふうに遊んだのが久しぶりっていうのもありますけど、やっぱり先輩だからこそ楽しく感じられました。こんなに楽しい人に友達ができないはずがありません」
「…………」
「楽しい人」ね……。
俺は過去のことを思い出してしまい、無言になる。
まさか自分がそんなことを言われるとは……。
俺も楽しくなかったわけではない。……いや、正直に言って楽しかった。ここ数年で一番「人と一緒にいて楽しい」と思った瞬間といっても過言ではない。そもそも人と一緒にいた数が圧倒的に少ないのだが。
特に意味のあることを言ったわけでもない。むしろ最後の方は自分でも理解不能の域に達していた。それでも、この喧嘩のような行為はとても楽しく感じられた。普段人と関わっていなかったからこそ、こんな関係にどこかで憧れていたのだろう。
人と関わることを面倒くさがっていたはずなのに、こんな風に後輩と喧嘩もどきをやっているなんてな……。
俺は今までの自分の考えとついさっきの行動を照らし合わせると、なんだか自分に呆れてきたので、そのまま仰向けになった。
……………ん?なんか地面固いな。ここってどこなんだっけ………
ガバッと勢いよく起き上がり、周りを見る。
人。
俺達を囲むように、すごく大量の人達がいた。
突き刺さる視線。
「…………おい、陽菜。周り」
「ん?先輩急にどうしたんです……か……」
陽菜もこの視線に気付いたようで、愕然としている。
人生終了のお知らせかな?
え、だって俺に対しての視線九割方殺意でできてるもん。向こうから見ればぼっちが超美少女と入学当日に校門でいちゃついているのである。そりゃ殺したくなるのもわからなくはないけどさぁ。
ってかちょいちょい「帰りに路地裏に引き込まれてボコろう」だの「今度校舎裏に呼びだそう」だの、危険な発言が聞こえるんだけど!怖いからやめて!か弱い僕をいじめないで!
陽菜の方も、女子が興味津々といった表情で見つめている。帰ったらメールの件数凄いだろうなぁ。友達追加初日に先輩との関係を疑われる……まあ頑張れ。
「………それで、どうする?」
「………取り敢えず、帰りましょう」
「………そうだな」
立ち上がって、素知らぬ顔で俺達は駅まで歩き始める。
こういう時に変に分かれると逆効果だ。別々になれば捕まりやすくなってしまう。
そこで逆にこの状況を利用し、二人の世界作ってますアピールをすることによって、部外者が邪魔しにくくするという戦略である。
真のぼっちたるもの、このような状況となっても無事に回避できるように普段から対策を立てておくのだ(これを人呼んで妄想という)。
陽菜も同じ結論に至っていたようで、何も言わなくともしっかり横に並んできた。やはり元ぼっち勢なだけはあるな。
とりあえずこの作戦は成功し、俺達は無事に駅に着くことができた。
※少し変更しました。
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