第1話 ポンコツスピーチ

「はぁっ、はぁっ、ま、間に合ったぁ……」


 電車で乗り過ごしてから暫く経った後、全力疾走をして学校に着いた。

 まずはクラスを確認だ。

 学校の中庭に各学年ごとにクラスが発表されていて、生徒はそこで自分のクラスを確認して該当する教室に向かう。

 どうやら全力疾走してきた甲斐あり、急いで探す必要は無さそうだな。


 大きな掲示板のようなものが仮設され、そこにクラスが貼り出されるのだが、悲しいことにうちの学校は人数が多いため、クラスはA~Gの全部で七つある。なので見つけることが困難となってしまうのだ。

 Aから順に目を通していくと、俺の名前はDクラスのところに載っていた。

 クラスのメンバーを見るが、まぁ当然のように仲のいい人はいない。そもそもこの学校にすらいないのだが。


 ふと時計を見てみると、まだ少し余裕がありそうだ。ついでに陽菜のクラスを調べてみることにする。


「んーと、南陽菜……って同じDクラスかよ……」


 学年が違ってもクラスが同じなら、自然と関わる機会も多くなる。

 例えば体育祭などの縦割りでの行事の時には、全ての学年が混ざって何かを行うということがあるのだ。

 陽菜と一緒になったことが嬉しいのか嫌なのかと聞かれれば正直嬉しいに傾く。

しかし、あのテンションについていける気もないし、何よりそこまで親密になるつもりもないので別のクラスだったほうが良かったのかもしれない。

 

 まぁ、今更何を言っても決まったものはしょうがない。なるべく関わらないようにして、平穏な日常を過ごすことに努めれば済むだろう。

 再び時計を見ると、そろそろ教室へ向かったほうが良さそうな時間だった。

周りにはクラス分けで話が盛り上がっているのであろう集団が、いくつも存在している。

 もし、自分に友達がいれば、あんな風に騒いでいたのだろうな、などと無意味な妄想をしながら俺は校舎の中に入っていった。




「新入生挨拶。新入生代表、南陽菜さん」

「ん………ん?」

 

 始業式の最中、どうやらうたた寝をしてしまっていたらしい俺は、耳に入ってきた情報に知っている単語があることに気付いた。

 新入生代表として呼ばれて出てきたのは、今朝の少女だった。

 聞き間違えではないようだ。


「……あいつほんとは凄いんだな」


 新入生代表は入学時のテストで主席だった生徒が行う。要するに陽菜は今年の主席だったのだろう。……あのポンコツが代表って、今年は大丈夫だろうか?

 

 まぁこれで朝急いでた理由がわかったな。

 それにしても改めて陽菜を見ると、やはり可愛い。……いや、代表としての雰囲気を纏っているせいで可愛いよりも美しいの方が強く感じられる。まさに、一本の美しい百合のよう。

 皆が陽菜からの言葉を今か今かと待つ………ってあいつ何やってんだ?

 何度も左右のポケットを探っている。探しものだろうか。……もしかして、喋る原稿を探しているのか?

 それから一分間程探していたかと思うと、何もなかったかのように姿勢を正した。……何も無かったんだな。ドンマイ。


「……えー、桜舞う天気の良い今日、雲一つない青空の下、過ごしやすい気温で、穏

やかな風が吹き、花粉が飛ぶ中、私達は無事に高校生になることが出来ました……」


 ……やっぱりポンコツはポンコツだな。いきなり天気予報始めるのはやめようか。確かに花粉飛んでるけどさぁ……流石に花粉はアウトだぞ。っていうかこういうときは入学したことを言うべきであって、高校生になったことを言うべきではないと思う。

 周りの反応を見てみると……まぁ予想通りだな。ポンコツだと見破っている人や、理解不能で戸惑っている人。教師達は目を丸くしていた。

 その後もツッコミどころ満載のポンコツスピーチは無事(?)に終わり、脳内ツッコミで疲れは俺は再び夢の世界へと誘われていった。


 始業式の後はホームルームがあって終了。授業は明日から始まる。

 ホームルームが終わり解散となった瞬間、皆が既存の交友関係を深めたり、新しい関係を築いたり、忙しそうだ。……まぁ俺には縁がないことだがな。

 教室に残っている意味もないので、そそくさと教室を出る。勿論声をかけられることなどはない。期待すらしていない。……ほんとにしてないからねっ!

 

 始業式は午前中に終わるため、昼飯は自宅で済ませることとなる。

 俺は家族と離れて一人暮らしをしているため、昼を作るのも自分だ。

 健康に良くないもの、例えばカップラーメンや冷凍食品などは使わない。理由は特にないが、なんとなくあまり食べたくないのだ。そんなにおいしいと思わないし。

 

 そのため毎食自分で作っているのだが、特に献立を考えるのが大変だ。

 料理自体は好きで昔からよくやっていたのだが、せいぜい一週間に一回程度だ。その時は作るものにもあまり困ることがないのだが、毎日となると難しい。そうそう案が思い浮かばないのだ。献立に悩んでいるとき、ほんとに母親は凄いとつくづく思う。


 それで、今日はどうしようか……冷蔵庫にあまり食材が入っていなかった気がする。帰りにスーパーに寄って決めるとしよう。

 財布の中に十分な金額が入っているか思い出そうとしながら校門を通り抜ける、が……


「あっ、やっと来ましたね、先輩!」


なんか聞こえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る