テディの休日

夏戸ユキ

テディの休日




 初めて、君を見た時。


 どこかで会ったような・・・懐かしい香りがした。


 ありふれた言い方だけど。


 子供のころから、君を知っていたような気がしたんだ。





 臨時のアルバイトとして、一日だけ働く事になりました!


そんな元気のいい声を出して、君は、僕の働いているカフェに来た。


 店長が、あれ?。そんな話聞いてないぞ?と、本店に電話をして確認している間に。


すんなりとお人形のようなその美しい容姿に引き寄せられるように。


 その場に、彼女はあっ・・というまにスタッフたちに馴染んでいた。


 りかちゃんと、芽瑠ちゃんと、もうLINE交換しているし。


 昔ディズニーランドで見た、「不思議の国のアリス」がここに来たみたいに、みんな君に心を奪われていた。


「山本テディと言います。みなさん宜しくお願いします。」彼女はすんだ声で僕たちに自己紹介をした。


 テディという名前なのはハーフだからだろうか?。彼女はとび色の瞳をしていて、髪の色から肌の色から、異国の雰囲気を漂わせていた。じゃあテディちゃんだね。とチーフが言う。


 君は、見た目以上に俊敏で、よく動いいてくれた。常連さんも喜んでいて、赤ちゃんや小さい子は彼女を見て、ケラケラ笑った。


 そして・・・・間近で見れば見るほど、君の顔と、スタイルは僕の周りのどの女の子より、素晴らしくずば抜けていた。なんというか、綺麗の次元が違っていた。


「・・・きれいですね。」


 女の子に面とむかって、キレイというのは初めてだった。あっ・・というまに、彼女がいる一日は終わった。


 そんな可愛い君が、カフェ閉店後の夜の9時に、なんと!一人でカフェに行くと言う!!


「私、紅茶飲みに行きたいんで、こっちから帰ります。」


 そういって、片手に小さな鞄と、カーディガンを肘にかけ。


 僕たちに手を振る君は、とてもきれいだったが。


 いくら君の背丈が高いとはいえ、こんな完璧な女性が一人で繁華街が近い夜の街に消えていくのをほっといてはいけない気がした!!。


 僕は思わず「ご一緒していいですか?。」と声をかけ、すんなりと僕とテディちゃんは一緒にお茶をすることになった。


 彼女がこの紅茶が飲みたいと言い出したのに、ほとんど僕のナビでそのカフェに辿り着いた。


なぜかこんな時間にある、アフタヌーンティのセット。


苺のような模様の、ティーポット・カバー。


こんなカフェ、行こうと思えば、いつでもいける、ごくありふれた日常のひとつなのに。


彼女といると、普段起こらないことが、起こる。とても、楽しいことが今起こっているような、そんな気がした。


 このカフェの紅茶を飲んでみたくって。と言った彼女は、それを口にするのが初めてかのように一口ずつ、大切に飲んだり、Tカップを指でつついていた。


 その様子はまるで・・・人間界に来た人魚が初めて人間の世界に足を踏み入れて、ひとつひとつのものに感動しているような・・・。そんな様子を思い出させた。


「私たち、昔あったことあるんですよ。」


 彼女はふいにそういった。


 胸が高鳴る。そして、どうして、君と初めて会った気がしなかったのか。昔あったことがある。と言われたら、すんなりと腑に落ちた。でもどこで?


「・・・・実は僕も。初めて会った気がしなかったんです。でも、覚えてなくて・・。」


僕は正直に告白し、謝罪した。


 今日何度か考えたが、本当に覚えていなかった。


 一瞬・・・・彼女の瞳がさみしそうに見えた。


 胸が一瞬、きゅっ・・・となった。


 嘘でも。


 覚えているよと言ってあげればよかった。


 今はそう思うけど。


 もう、遅かった。


 彼女はすぐににっこりと笑い、ティカップを持ち上げ、言った。


「いいんですよ。私。・・人に忘れられるのは慣れてるんで。」


僕は必死で首を振った。


「いいや。僕は、きっと。君を思い出すよ。だって・・・。」


君みたいな、綺麗な人。出会ったら一生忘れないだろうから。


今は、どこにもいなくても。


きっと、過去から。探し出して。


また君を捕まえよう。


「そうですか。」彼女はにこっと笑った。


「・・・・じゃあ、私のこと、ゆっくり思い出してくださいね。」


 彼女は意味深な言い方をした。




 翌日。



 すっかり舞い上がってしまった僕は、また君に会えるんじゃないかと思い、ほくほくしながら出勤したが、彼女の姿はそこに居なかった。 昨日の人は誰だったんだろう・・・?。と店長も、他のスタッフも、首をかしげていた。りかちゃんと芽瑠ちゃんは彼女とLINE交換したのに、消えている~!とぼやいていた。



 僕は、昨日テディちゃんとお茶した夕べが信じられずふらふらしたまま一日を過ごしていたが、ふと思い立って、昨日彼女といったカフェに行ってみたが、そこはもぬけの殻の廃墟ビルであった。



 一体、彼女は何者だったのか・・・。


 わからないままだけど。いつかは会える。僕はそう信じていた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「また棚から落ちてる。・・・はい、元に戻したっと。テデイちゃん、おやすみなさい。」


ピンクベージュのドレスを着た、着飾った私。


いろいろな子供たちの家をたどって、今、わたしは、ここの保育園にいる。


 着せ替えのお人形。


 これが、いつもの、元の、私の姿だった。


ここにはキレイな服も、お料理セットも、スマホも。


 みんなが羨ましがるものを、私はなんでも持っているけれど。


 でも、私はいつも、どこかさみしい。


 何年もの間。子供たちと遊んで。そして、忘れられていくだけの私だけど


 いつかは、誰かが言っていた、恋がしてみたい。


 いつか、私がそばにいたい人と、ずっと一緒にいれますように。


 




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テディの休日 夏戸ユキ @natsuyukitarou

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