第5話 好きな人と不思議を調査する

 と言う訳で桜に誘われてやってきたのは、今朝彼女と遭遇した道路の現場だった。


「さあ、探すよー」

「まだここで何かを探すの?」


 言っちゃ何だが普通の道路だ。近くには民家が立ち並び、横には草ぼうぼうの空地が広がっている。

 何も無いと思うのだが、桜は笑顔でやる気だった。


「うん、ここには何かあるってわたしの探偵としての鼻がビンビン感じるのよね」

「何かってここに何があると思うの?」

「それを突き止めるのが我々の仕事よ」

「丸井さん今日は部活は?」

「そんな悠長な事をしている場合じゃないでしょう? 事件は起こり初めているんだから。クラスの連中には分かっていないのよ。協力してくれるのが勝田君だけなんて」

「さいでっか」


 球児は今頃になって彼女の誘いを断ったみんなの気持ちが分かるような気がした。

 こんなことなら自分も帰宅部の活動として帰れば良かったかなと思ってしまうが、やはり桜の笑顔を独占できるのは嬉しいものなので。

 上手く使われてるなと思いつつも、彼女の機嫌を損ねないように一緒に探すことにした。

 だが、狭い路上には何も無くて。電柱の陰や壁の隅っこや排水溝にも何も無かった。空を見上げる。


「勝田君、何か見つかった?」

「ううん、何も」

「不思議はどこにあるのかしら。この辺りにあるのは確かなんだけど。何か手がかりがあればいいんだけどね」

「そう言えば父さんが草むらにはモンスターがいるって言ってたな」

「それだ!」

「どれだ!?」


 答えは聞かなくても分かった。好奇心を宿して閃いたと言わんばかりの彼女の瞳は道路横にぼうぼうに茂った背の高い草むらに注がれている。

 まさかこの中に突っ込めとか言わないだろうな。そんな球児の心配は杞憂となった。


「行くわよ! 不思議を求めて!」


 何と彼女は自らその草むらの中に踏み込んでいった。


「おい! 待てよ、探偵!」


 制服が汚れるのも気にせず進んでいく。

 球児はそんな彼女を放っておけず、自分も中へと踏み込んでいったのだった。




 結局中では何も見つからず、いたのは虫ぐらいだった。


「うう、制服が汚れちゃった。それにかゆいよ!」

「だから、止めようとしたのに」

「次からはジャージを着てこよう」

「まだ探すつもりなんだ」

「ほら、勝田君のここも草付いてるよ」

「ありがとう」


 球児は恥ずかしさを抑えつつ疲れたため息を吐きながら、まだ付き合うつもりでいたのだが。


「ううん、勝田君はもういいよ。付き合わせちゃってごめんね」

「え? もういいの?」

「うん、もう部活のみんなも帰る時間だしね」

「そう」


 彼女にそう言われては帰るしかないのだった。

 ここで何かかっこいいことが言えれば良かったのだが、言えないのがぼっちと言う物で。


「また明日学校でね」

「ああ」


 笑顔で手を振る彼女に見送られてただそう答えることしか出来ないのだった。

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