第6話 そして、不思議が現れる

「ただいまー。返事がないな」


 桜と付き合っていた分、いつもより遅い帰宅になってしまった。

 それでもまだ両親が帰ってくる時間ではない。妹も今日は部活に行っているのか帰ってきていないようだ。靴が無い。

 家の中から物音がするので行ってみたら、マルルンが妹の部屋でゲームしていた。無視するのもあれなんで中に入って声を掛けることにした。


「ただいまー。ゲーム楽しいか?」

「たーのしー。うわわっ」


 どうやらゲームで大変なようなので邪魔しないように座って見ていることにした。

 マルルンは子供のように熱中している。もうこんな楽しむ感情なんて自分は忘れてしまったなと思って見ていたら茉莉が帰ってきた。


「もう先輩に部活を強制されて参ったよ。早くマルちゃんに会いたくて帰りたかったのに。うわっ、マルちゃん、ゲームの腕が上達している!」

「くひひっ、もう誰にも負けないですよ!」


 その宣言通りコンピューターに勝利していた。結構危ない勝負だと思ったが、茉莉の対抗心は刺激されたようだ。


「何を! お兄ちゃん、協力してこいつを倒すよ!」

「ああ、任せとけ!」


 そして、マルルンを囲んでの三人対戦が始まった。

 結果、球児が一人でボコられた。


「おい、茉莉! お前、協力するって言ったよな!」

「言ったっけ?」

「勝負は非情なのです」

「お前ら……今度は見ていろよ!」


 そして、ゲームに熱中していった。




 負けが嵩んでもうここに俺はいなくていいんじゃないかなと球児が思い始めて来た頃、ご飯に呼ばれたので昨夜と同じくゲームを止めて台所に移動した。

 テーブルの皿に盛られた白い半円の物体を見てマルルンは目を丸くした。


「何なのじゃ、これ」

「お前、のじゃキャラだったのか?」

「それぐらい驚いたってことです」


 皿に盛られていたのは餃子だった。我が家では両親が好きでたまにある事だったが、マルルンには珍しいようだった。

 母がいつもの光景のように宣言する。


「今日は餃子パーティーよ。マルルンちゃんがよく食べるから多めに買ってきちゃった。たくさんあるから遠慮せずに食べるのよ」

「いただきます」


 さすがに一人増えただけで多すぎだろうと球児は思ったが、すぐに自分の方が間違っていた事を知る。

 マルルンは何と箸で複数の餃子をまとめて掴むと、それを一気に自分の口に放り込んだ。


「もぐもぐ……おいしー!」


 すぐに次の箸が向かっていく。またまたペロリ。またすぐ次の箸が。


「凄い! いつもの三倍の速さで無くなっていく!」


 これにはさすがの茉莉もびっくり。母にとっては想定内だったようでニコニコしている。


「球児! 早く食べないと無くなるぞ!」

「分かっているぜ、父さん!」


 球児も急いで食べ始めた。家族で黙々と食事を進めていく。

 やがて皿に積まれた分が減ってきて、母がお代わりを足そうかと立ち上がりかけた時だった。不意に電話の音が鳴った。


「うちの電話じゃないわね」

「あ、あたしの電話です」


 マルルンが口で餃子をもぐもぐしながら携帯を取り出した。

 こいつ携帯を持っていやがったのか。今時の子なら持っているかと球児が思う前で電話をするマルルン。

 やがて通話を終えて電話を切ったマルルンは衝撃の事実を口にした。


「お兄ちゃんが来るって」

「え!? マルちゃん、お兄ちゃんがいたの!?」

「こんなのがもう一人!?」

「餃子もっといったわね」

「外に出て待っていろって」


 マルルンがそう言うので、家族みんなで外に出て待つことにした。

 その時の球児達は事態を甘く見過ぎていたのかもしれない。マルルンがあまりに平和そうにしていたので仕方が無かったのかもしれないが。




 日が沈みかけ、夕暮れの影が伸びてきた路上で。


「何も見つからないわ。この範囲にあるのは確かなのに」


 桜は一人寂しく息を吐いていた。そっと空を見上げる。


「一人は寂しいな。やっぱり勝田君にいてもらえば良かったかな。役には立たなかったけど気晴らしにはなったし。んっ!?」


 その時、不意に空に違和感を感じた。原因は何かなど探す必要はなかった。空間が揺らめいたかと思うと空に巨大な円盤が現れたのだ。

 桜は閃いた。球児が空を見上げていた事を思いだして。


「勝田君が見ていたのはこれだったんだ! 地上を探しても見つからないわけだ。不思議は空にあった!?」


 なぜ草むらを探そうと言ったのか腑には落ちなかったが、余計な思考をしている暇は無い。不思議は現れたのだから。

 円盤が移動を開始した。桜には見逃すつもりはなかった。


「ついに見つけた不思議発見! 誰にも奪わせはしない!」


 飛んでいく物体を彼女は急いで走って追いかけた。

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