第二部 エピローグ 「故郷はなくなりましたが、希望はあります」『オレが、みんなの帰る場所を作るぞ』

ドランスフォードに育つ世界樹

 ジョージ王子改め、新生ドランスフォード国王によって、亡国から資材の運び出しが行われる。


 結局、ドランスフォードの復興は放棄した。都市部の損傷が激しすぎたのである。どのみち、一度破壊された街だ。再び攻められると、もろいだろう。


 クレメンツィオ王子とレンゲの精密な調査によって、判明したのである。


 そこで、フーゴの街を起点に、新たな王都を作ることにした。使用できる資材などをドランスフォードから運び、小さい街を作っている。ここなら、イスリーブとレプレスタに挟まれ、協力関係もスムーズだ。


 元々フーゴも、大きい街だ。城と城壁を建てる程度で、ことは済む。


 消えていくドランスフォードの面影と、新しく生まれ変わるフーゴの街を見比べる日々が続いた。


 コデロは、なんとも言えない気分である。


「これで最後です!」

 最後のガレキが運び出され、今度こそドランスフォードは更地となった。


 都市の全景を見下ろせるほど大きかった城は、チリ一つ残っていない。

 他の町並みも、何一つとして失った。

 魔物を退ける壁もない。


「これより、旧ドランスフォード王国、追悼の儀を執り行う」



 その場にいる一同が、黙祷を捧げた。



「研究所としての機能も失われましたか」

「仕方ないよ。次元転送装置が悪いんだ」


 また、デヴィランはこの地で、次元転送装置を発動させた。

 その影響で、土地の魔力が歪になってしまっている。


 この状態で建国などをすれば、再び良からぬものを呼び寄せてしまうらしい。

 住む場所を失った者たちの無念によって、アンデッドが発生する危険もある。


 ノア・ハイデンのアドバイスを受けて、コデロは泣く泣くこの地を手放すことを決意した。


 次元転送装置も、処分済みである。

 もう二度と、発動することはない。


「悲観することはないって。コーデリア殿下」

 草一本さえない土地に、クレメンツィオが苗を持ってくる。両手のひらに収まるほど、苗は小さい。一息吐けば、飛んでいってしまいそうだ。


「クレ氏、それは?」

「世界樹の苗さ」


 この苗を植えることで、再びドランスフォードに正常な魔力を呼び戻すそうだ。

 エルフの力を宿す世界樹なら、これが可能らしい。


「王様が木を植えたら、あんたがこの地に魔力を送り込んでくれ。それで、世界樹はバッチリ育つ。コウガの聖なる力を受けたら、世界樹だって無事に成長するだろうぜ」


 そうクレ氏は言うが、コデロは半信半疑である。


「信じられませんが」


『やってみるしかないな。一縷の望みにかけよう』

 いぶかるコデロを、リュートが励ます。


「はい。亡くなった人たちが安らかに眠れるよう、私も尽くします」

 コデロもようやく、決意を固めたらしい。



 クレ氏が連れている騎士団が、シャベルで領土の中央に穴を開けた。



「ドランスフォード王、お願いいたします」

 エルフ王子クレ氏は、ジョージ王に苗を渡す。


「うむ。ではこれより、植樹を行う」

 ジョージ王が、苗を植えた。根に土をかぶせる。


「では、コーデリア殿下。お願いします」


「はい」

 土の上に、コデロは手を添えた。故郷の地に、己の魔力を注ぎ込む。


「ぬううう」


 世界樹を通して、周辺に魔力が行き渡るのを感じ取った。


 なおも、コデロは魔力を流し込む。復興の願いを込めて。


「ありがとうございます。殿下」


「いえ。貴重な苗を分けてくださって、ありがとうございます」

 コデロが、地面から手を放す。



 ズズズッ、と大地が揺れるのを感じる。


 土が不自然に盛り上がった。



「皆さん、離れて」

 クレ氏の合図によって、全員が領域から離脱する。


 その瞬間、世界樹が急成長を始めた。かつてのドランスフォード城を思わせるほどの高さまで、グングンと伸びていく。


 世界樹だけではない。周辺にも緑が戻っていった。実のなる草まで生え始める。

 鳥や小動物たちが寄ってきて、実を食む。


 緑の範囲は、ドランスフォード跡地全域にまで行き渡っている。


「あとは自然に育つぜ。直に広葉樹も育つだろ。それにしても、驚くべきはコウガの魔力だな。どえらいもんを見たぜ」

 クレ王子が、世界樹を見上げながらヘヘっと笑う。


「これよりこの地は、オンディール国の一部エルフが治める。それでいいな?」

「はい。管理のほど、よろしくおねがいします」


 これにより、世界樹は魔力障壁に守られ、安全に育つだろうとのこと。


『すごい光景だな。オンディール地方にも引けを取らないぞ』

「これが、コウガの力ですか」

『いや。これは、キミの思いだ』

「私の?」


 コデロが真剣にこの地を浄化したいという願いが、この土地に奇跡をもたらしたのだ。


 リュートには、そう思えてならない。


『感じないか? この木々、草一本に至るまで放つ魔力を。オレたち以外の温かい魔力を感じるぞ』


 両手を広げて、コデロも魔力を受け止める。


「はい、感じます。死んでいった民の魂が、世界樹の栄養となって清められていくのを」


『ヒーローの力とは、敵を倒すためだけにあるわけじゃないんだな』


「初めて私は、コウガでよかったと思えるようになりました」


『本来、オレたちの力はこう使われるべきなんだな』



 リュートは本当の意味で、世界を救った気がした。

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