新生ドランスフォード
それから、数日の時が経つ。
コウガとイクスは、新生ドランスフォード領内の中庭でセッションを行っていた。
レンゲが歌い、ディアナのピアノに合わせて。
威厳ある曲ではなく、ポップな軽いセッションだ。
リュートが地球から持ち込んだ曲である。
イクスなど、踊りながらヴァイオリンを弾いているではないか。
イスリーブ国王、レプレスタ国王ならびに王族の面々、エルフ国の王子まで、勢揃いしていた。新たな国の誕生を目に焼き付けようと。
城と言っても、威厳などまるでない。二階建ての城である。
急ごしらえのため、城として機能などしていない。
メインディッシュなど、ミレーヌのカレーという有様だ。どこまで庶民的なのか。
領土も小さく、ほとんどは畑だ。随所に焼け跡も残っていて、砦を見上げる人口も少ない。
復興には程遠かった。
その中を、ダニー、ミレーヌたちバンナ父娘が歩き回る。
故郷である純喫茶から、大鍋で庶民にカレーを振る舞う。
建国を祝うお茶会だというのに、まるで炊き出しだ。
これで国などとは、よく言えたものである。
それでも、市民から笑顔は絶えなかった。
コデロたちの曲に合わせて踊り、歌う。
市民も王族も関係なく。
フーゴはドランスフォードの領地だ。
誰一人、移転に反対するものはいない。
演奏するコデロの視線の先には、ブルレンが。
フーゴにある冒険者ギルドのマスターである。
娘のアテムと酒を酌み交わし、お互いの武勇伝を語り合う。
彼が、新生ドランスフォードのギルドマスターをしてくれることになった。
演奏が終わり、領内に拍手が送られる。
小さな国王、ドランスフォードの城の砦から、イスリーブ第二王子改め、ジョージ国王が顔を出した。
「今日、本格的にドランスフォードが新たに建国される。余がジョージ国王である。皆の衆、よろしく頼むぞ」
お茶会の席でどもっていたいジョージ殿下は、もういない。国を背負う責任と、民を守る気迫に満ちている。
ジョージ国王に似て、まだ完全に城として回復したとは言い難い。
しかし、新たな国王となったジョージ王とディアナ王妃の姿は、誰よりも気高かった。
挨拶が終了し、歓談となる。
「このドレイク・ヘインズリー、ドランスフォードに居を構えることとなった。妻たっての希望だ」
ラキアスに言いくるめられ、イスリーブ経済領は商業ギルド長に引き継いでもらった。生真面目で働き者の彼なら、イスリーブも安心だろう。
なにより特筆すべきは、王族側近の存在だ。
騎士団長がクリスことクレシェンツィオ王子で、副団長がレンゲである。
レプレスタ王ともども、レンゲは不問にしたのである。
今後の働きで許すと。
ドランスフォード妃となったディアナにとって、レンゲはなくてはならない。
「まったく。あんなにも元気になって。王妃にまで成長するとは」
国王の言うとおりである。
実際、ディアナの回復は著しかった。
まるで、要塞から魔力を奪い返したと思わせるほどである。
顔や肌に血の気が戻り、肉付きも良くなった。
エルフらしい美しさは、イクスをも凌ぐほどである。
「だから申したのですわ。彼女は音楽団のいち演奏者として終わる器ではないと」
自分のことのように、イクスは誇らしげに妹を褒めちぎった。
国王が肩をすくめる。
まだまだ、イクスは相変わらずだと言いたげだ。
「それより騎士団長クレシェンツィオ王子、あなたまでよかったのですか? エルフの里をお守りする任務があるのでは?」
「知るか、んなもん」
クレ団長は、頭をかく。クレ団長も、エルフの森を去るのだ。
「世界を見て回ったほうが、里のためにならぁ。万が一のときくらいは帰るが、不変がモットーだからな。そうそう異変なんて起きんさ。なんたって」
クレ団長が、イクスに視線を向ける。
「トラブルの大元が、レプレスタからいなくなるんだ。平和になるってもんだろ」
そう。イクスはレプレスタを去った。
コデロと旅に出るのである。
「コーデリア殿下、改めて確認いたします。あなたはよいのですか? ドランスフォードを、あなたの故郷を他人に任せて?」
ジョージ王子が、コデロに問いかける。
建国を任せる際に、コデロは自身の正体を関係者全員に明かした。
事情を知ってもらってからのほうが、引き受けてもらいやすかろう、とリュートが提案したのだ。
「ベルト様、でしたか。あなたまで、自分の故郷へさえ帰れずに」
『いいんだ。オレたちには、やるべきことがある』
地球へ帰れないことを、リュートは後悔していない。
この世界を立て直すことの方が大事だ。
「建国も大事ですが、世界が平和こそ大事なのです。そのためには、デヴィランを滅ぼさなければ」
隣国の王族との立ち回り、経済状況の把握、
ならば、強い相手に任せるべきだと、リュートはコデロに助言したのである。その方が、コデロも戦闘に集中できるではないか、と。
「ところでイクス、少々お話があります。日程を空けておいてくださいね」
今日は祝いの席なので、日を改めて会うことに。
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