最期の抵抗

『このままでは死なないよ! お前も国を滅ぼされた憎しみを知れ!』


 コブラ大怪人が、杖からレーザーを放った。その威力は凄まじく、大地を切り裂くほどである。


 レーザーの光が、ディアナたちのいる方角へ落ちた……。 


「ディアナアアアアアアアア!」

 手を伸ばしながら、エスパーダが叫ぶ。


 その方角は、土煙に覆われて見えない。

 見ないほうが、彼女のためかもしれないが。


『ギャハハハハァ! デヴィランは不滅なりぃぃギャアアアア!』


 イクスの大切なものを奪ったコブラ大怪人は、崩壊するクイラス要塞と運命をともにした。


 エスパーダが、バイクで地上に降りる。


 コウガもエスパーダも、変身を解いた。


 大地は燃えて、あちこちで爆発も起きている。


 イクスが、ディアナのいる方へ駆け寄ろうとした。


「ディアナ! ディアナァ!」

「おやめなさい! まだ危険です!」


 燃えさかる大地に、イクスは無理やり飛び込もうとする。


 コデロは必死で、イクスを止めた。


「そんな。ディアナがいなくては、世界が守れても仕方が……」


 炎が収まり、土煙が晴れていく。


「わたくしは一体、なんのために……」


 だが、イクスは力なく地面に顔をうずめた。


「待ってください! イクス、あれを見て!」

 コデロが、イクスを抱き起こす。


 二人の視線の先には、暖かい光に包まれたディアナの姿が。


「防御結界が、間に合いました」

 光の主は、ジョージ王子だった。


「ディアナァ!」

「お姉様!」


 イクスとディアナが駆け出し、二人で抱き合う。


「王女、ご安心を! ディアナ様は無事です!」


 ディアナの側には、ジョージ王子の姿が。

 白銀のヨロイを身に着け、手には魔力石が埋め込まれたブレスレットがある。


「王子が障壁を作って、私たちを守ってくださったの」

「ありがとうございます、王子! あああ!」


 ディアナを抱きしめながら、イクスは何度も王子に感謝を述べた。


「王子、おケガは?」


「大事ない。それより、クレシェンツィオ殿下、ご協力感謝いたします!」


「へへ。どうってことねえです。最後の最後は、王子に助けられたんで」


 ジョージ王子とクレシェンツィオが、固い握手をかわす。



「しかし、疑問はあります。どこであれだけの装備を?」


 アテムレベルの防御力を、なぜ非力な王子が扱えるのか?


『魔力で作った障壁を発動できるよう、王子にも魔道具マギアを提供したんだ』

 通信から語るのは、天才科学者ノア・ハイデンである。彼女が、王子に防御用の魔道具を渡したらしい。


 魔力で使えるようにした分、軽量化に成功した。おかげで、非力な王子でも扱えたのである。


『いやぁね、チビっ子王子にせがまれたんだよ。余にも戦う力をよこせって。ディアナ様をお守りしたいんだってさ。断るのが大変だった』


 前線に出たがるガキほど、迷惑なものはない。それでも、王子は「せめて姫でも守りたい」と言って聞かなかったそうだ。


『姫様を守る力だけあればいいでしょ? 前線に出ないと約束してくださるならお渡ししますよ、って手を打ったんだ』

 ノアの口ぶりからすると、相当くたびれたらしい。


『仮にも一国の王子サマだからね。魔力の勉強くらいはしていると思っていたけど、想像以上だった』


 ディアナを守るため、彼も努力を積み重ねていたということだろう。


 愛の力は、偉大である。


『王子も、頼もしい限りだな』

 リュートは、王子の献身的な行動に感心した。


「あとは、国王とイクスの関係が収まればいいのですが」


 まだ、二人の間には修復しきれない亀裂がある。 


「ディアナ!」


 レプレスタ国王が、ディアナたちの前に。国王もボロボロである。

 手に持っていた剣は折れ、騎士に支えてもらいながら、足を引きずっていた。


 ディアナが、国王を抱えるように抱きしめる。


「よかった。私はまた、大切な家族を失うところだった」

 国王は、ディアナと抱き合った。


「ジョージ王子、なんとお礼を言えばよろしいのか」


「真の英雄は、余ではありません。戦乙女の方々です」


 王子は首を振る。


 国王が、イクスを見上げた。


「お父様、ご無事で何よりでした」

「ずっとお前を見くびっていた。何もかも、お前に委ねてしまったね。すまない」

「よいのです。ディアナを脅かす悪は去りました。もう、なんの心配もございませんわ」


 イクスは、レプレスタ王に腕を回す。

 憑き物が取れたように、穏やかな表情であった。


『やはり、二人は心底でいがみ合っているわけではなかったんだな』

「愛が強すぎたのです。それゆえに衝突も激しかった」


 これからは、親子二人で手を取り合うだろう。


「国王よ。こんな状況なのに申し訳ないが、相談がある」


「問題ありませぬ。話し合いましょうぞ」

 座れる場所まで移動し、レプレスタ王は僧兵から治癒の魔法を受ける。


「もし結婚するなら、国を任せると言われているんだが、どこを治めればいいのやら?」


 独立しろというわけか。


「ディアナも一人前になったのですね。頼もしい限りですわ」


 もう、ディアナも守られているだけではない。

 芯の強さは、この戦いで証明された。


『コデロ、話せるか?』

「いきなり、なんです?」


 リュートは、コデロに一つ提案をする。


「なるほど。いいかもしれません」

 よほどメリットの高い話だったのか、俄然コデロが乗り気になった。


「ジョージ王子、ディアナ姫。お二人に、相談があるのですが」

 コデロが、二人の会話に割って入る。


「はあ。なんなりと」



「我が国を治めていただけませんか?」

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