エルフ王女との対話

 特別ゲストを連れて、妖精族の祖先が住む世界樹へ。


 いざという時の相談役として、ラキアスと護衛のアテムも連れている。


 自然全体が、まるで生きているかのような息吹を感じた。それでいて、不気味さは感じない。


 世界樹も、大きいというより「太い」印象を受ける。世界を支えているかのような雄大さを感じた。葉の部分は濃い霧に包まれ、全体像が伺えない。


「ようこそ、妖精族の森へ」

 対話に現れたのは、イクスを大人しくしたような女性と、女性と見間違えるほど美しい男性だった。


「私はレプレスタ第一王女です。父がお世話になっております」

「夫です。妖精王とのコンタクト、我々が取り持ちましょう」


 レプレスタが引退するまで、エルフの森を二人で監督しているという。


「ラキアス、こちらのご婦人は?」


「レプレスタの食客として来てくださった、コデロ・シャインサウザンド様です。人呼んで、コウガと」


 イクスの友人で、今は素性を隠してデヴィランと戦闘しているとも、ラキアスは付け加えた。


「なんと、伝説の戦乙女、コウガですと! その節はよくぞエルフの里とレプレスタを守ってくださいました!」


 二人が、頭を下げる。


 コウガとして紹介されたときは、困惑した。


 が、こうでも言わなければ、コデロは部外者として排斥されていただろう。 


「して、あなた方は?」

 第一王女は、ゲスト二名に視線を移した。


「吾輩は、イスリーブ領内・武器技術コンサルタントの、ノア・ハイデンであります。今日はよろしく頼みますぞ」


「研究代表の、ダニー・バンナだ。よろしくな」


 二人に連れられ、コデロは王のもとへ。


 話し合いの場は、お茶会の庭を思わせる場所である。


「よくぞ、いらっしゃいました。私が現在のエルフ王です」


 エルフの女王は、背の高い女性だった。

 木のように細いが、目が力強く、強い意志を感じる。


 第一王女たちが、持ち場を去った。


「あなたが、コウガですか。お話は、ラキアスを通じて伺っております」

「ラキアス様が?」

「すぐにここへ来て、色々と話してくれました」


 エルフ女王が言うと、ラキアスがウフフと笑う。

 コウガにもっとも入れ込んでいるのは、ラキアスだ。うれしくて報告したのだろう。


「ベルト様、あなたの存在も」

『オレのことも知っているのか』


 リュートの存在さえ、エルフ王女は知っていた。なら、話は早い。


「本当は、レプレスタ王やイスリーブ王子とも対面せねばならないのでしょう。けれど、この地を離れられず」

「と、おっしゃいますと?」

「不穏な影が、世界樹を通じて伝わってきました。おそらく、デヴィランの」


 倒すべき敵組織の名が出た。


「デヴィランをご存知なのですか?」

「はあ。エルフとデヴィランは、昔から戦っております」


 魔法石は、デヴィランを倒すために開発されたらしい。


「こちらへ」と、女王と共に世界樹の根本へと向かう。


「大したおもてなしは、できませんが」


 言って、女王は世界樹にはめ込まれた杖を取り出す。先端の宝玉は、コウガのベルトを構成するオーブによく似ていた。


「では、このベッドに。横になってくださいませ」

 女王に促され、コデロはベッドで仰向けに。


「妙なことは、しないでしょうね?」

「ご安心を。随分とベルトが傷んでいるようなので」


 女王が宝玉を、コウガのベルトに当てる。


「エルフの持つ力の一端を、あなたに」


 熱が、杖を通して伝わってきた。容量が上がっていくような感触に。


 ベルトにも、変化が生じた。一見するとわからない細かな傷やヒビが、杖からの魔力によって解消されていく。心なしか、色も明るくなったような。


『何をやっているのだ?』


「コウガの戦闘効率を、最適化しています。あなたの世界だと【レストア】とか【オーバーホール】とかいうのでしょうね。ベルト様、とやら?」


 劣化・故障した部品の全面修理を「レストア」、航空機用語で「分解・清掃の過程」を、「オーバーホール」という。


『オレがベルトと呼ばれていると、よく知っていたな?』


「コデロ様の意思が、ベルトを通じて流れ込んできました」


 となれば、戦闘データも抜き取られていると見ていいだろう。仕方ない。周してくれているのだ。


「あなた方が使用していたのは、老朽化したベルトです』


 長年地球に放置されていたため、知らぬ間に痛みが生じていたらしい。

 ずっと魔力が沿っ削ぎこまれていたなかったせいで、魔力の流れも悪くなっていた。

 それでも十分強かったのだが。


「そのため、コデロ様のレベルにコウガがついていけなくなっていました。それだけ、コデロ様の能力が増しているのです。それこそ、超人レベルで」


 イマイチ調子が悪かったのは、ベルトのせいだったのか。


 女王いわく、コウガはずっと「不完全な状態」で戦っていたそうだ。

 おまけに激闘に次ぐ激闘で、ベルトが限界を迎えていたという。


『うむ。ますます強くなっているんだ。コデロは』


「いいえ。あなたもですよ。ベルト様」

 予想だにしなかった言葉が、エルフ王女から出てきた。



『オレが?』

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