あれは島じゃない。要塞だ
「あなたの魔力も、魔物との戦闘で高まっているのです」
そんな実感はなかったが。
「魔物の力も、以前より強くなっています」
神話の時代より、魔物はパワーが上がっていた。それに対抗するため、コウガの能力も向上させるという。
「今回のレストアでベルトの修復、オーバーホールで魔法石の調整を行いました。これにより、コウガの戦闘力及び戦闘持続時間は飛躍的に増すでしょう。また、レベルもその都度反映されます」
『今後は第三者による、メンテナンスが不要ということか?』
「ええ。キャパシティオーバーした戦闘技術は、そのままコウガのパワーとして吸収されていくでしょう」
もう、魔力のリソースに頭を悩ませる必要がないのは、ありがたい。
「メデューサと名乗る女性に心当たりは?」
「アロガントの女王、マーリトのことですね? 彼女はかつて、元妖精王の側室でした」
レプレスタ同様、アロガントもシティエルフとして活動していた。
マーリトはアロガントの地位をさらに拡大しようと、デヴィランの力を求めたという。
「マーリト・アロガントは、魔法石の技術を売ろうと、妖精王を誘惑したのです。自分に管理させろと」
まんまと乗せられた先の妖精王は、魔法石の権利をアロガントに譲渡してしまったらしい。
「レプレスタ王の手によって発覚するまで、大量の魔法石がデヴィランの手に渡りました。しかし、時の妖精王はマーリトを寵愛しており、彼女を殺しきれず」
「流刑にしたと」
「はい。ですが、その判決に納得できなかったレプレスタ王は、マーリトを討ったのです」
衝撃の事実を聞かされた。
「もう、どれだけの時が流れたでしょうか。マーリトは復活し、デヴィラン配下の魔族との間に大量の子をなし、復讐の時を伺っているとか」
その調査のために、エスパーダも野放しにしていたという。
「イクスは、アロガントの影をすでに掴んでいたのですね」
『だが、今の彼女は動けない。あとはオレたちがなんとかするしか』
ここまで話し、ノアが手を挙げる。
「少しよろしいですかな?」
ノアが、懐から地図を出して、テーブルの上に広げた。
「先日の鉱山襲撃と、アロガント城跡地にて、敵の妙な動きにぶち当たりましてな」
言いながら、ノアは地図に線を引く。ミミズの這ったような、珍妙なラインを。
「なんでまた、敵はこんな効率の悪い動き方をしたのやら」
まるで何かを避けているようだ、とノアは推測する。
『よく見ると、森に近づかないように活動しているように見えるが』
「そうなんだ」と、ノアは賛同した。
「この森周辺には、絶対に立ち入らないようにしている。何か、理由があるとしか」
「それは、世界樹の根に動きを悟られないように、です」
世界樹は常に、世界を監視している。
できるだけ気づかれないように迂回していたのだろう、とのこと。
「しかし、わずかに動きが根を通じて判明しました。今後はエルフたちでも対策を練るつもりです」
日和見主義というわけでもないらしい。
『レプレスタ王の発言とは、随分と印象が違うな。非戦闘民族だから消極的なのだと思っていたが』
「そんなわけないじゃん」とは、ノアの言葉だ。
「エルフ族は、メインでコウガを作ったような組織だよ? ヘタに世界へと介入したら、大陸が沈むだけじゃ済まない」
ノアの発言で、リュートは納得した。
エルフは世間に干渉しないんじゃない。できないのだと。
「素早い剣捌きを持った、強力な魔法使い。で、ありながら知略にも長ける。絵に書いたような完璧超人だよ、エルフってのは」
大げさに、ノアが肩をすくめる。
「ドワーフの権威に、そこまで称賛されるとは」
妖精女王が、謙遜した。
「いや……皮肉だったのだけれど?」
一見、力がなさそうなラキアスでさえ、アテムの着るアームド・システムを発案できた。もっと、力量を見極めておくべきだ。
「エルフ族は、排他的な思想を持っているからね。一度敵対した相手には、容赦しない。たとえ人間が相手でも。だが、今回はそのエルフこそ敵になった。厄介な相手だよ」
ノアの言う通り、エルフは積極的に領土拡大をするような、好戦的種族ではない。
その分、自分たちの領土を侵すものには容赦しないという。
だからこそ、レプレスタのようなハミ出し者を異物と拒絶する。それが、エルフの特製なのだとか。
エルフの力は、私利私欲のために用いてはならない。だが排他的な思想が行き過ぎて、アロガントという異分子が誕生してしまった。
「もう一つ、質問が」
今度は、ダニーが問いかける。
「実は、小型偵察機を飛ばして、あの島について調べさせた」
昆虫並みに小さい探索機を飛ばして、島を偵察したらしい。
「そうだった。帰ってきた偵察機の画像を見て、目ン玉が飛び出ましたぞ」
ノアも、調査をしていて驚きを隠せなかったという。
「どうなさって?」
ノアに、ラキアスが問いかけた。
「あれは、島ではなかった。移動要塞だ」
「なんですって⁉」
ラキアスでさえ知らなかった事実が、明らかに。
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