2-4 『ヒーローの違う一面が見られるぞ!』「私も女なのですが……」
カレーとエルフ
激闘から一夜明け、コデロはミレーヌの店で目を覚ます。
イクスとの話し合いをした直後、真っ先にミレーヌの元へ顔を出した。城には帰らず、朝食は不要と告げている。
泥のように眠り、起きたのは昼前という有様。
カレーを食べる余裕さえなかったほどである。
「生き返りました。やはり、ミレーヌのカレーが一番です」
鍋いっぱいのカレーを平らげて、コデロは満足した。
「うふふ。ありがとコデロ」
コデロの食べっぷりに、ミレーヌも満足げである。
「大した食いっぷりだねぇ」
「そういうアテムこそ」
この場には、ラキアスとアテムも同席していた。
コデロが遅いから呼びに来たのである。
アテムのテーブルには、あんみつ用のガラス皿が大量に重なっていた。
「我が家の料理は、お口に合いませんか?」
ラキアスが聞くと、コデロは首を振った。
「決して嫌いなわけでは。ただ正直、精進料理のようなメニューは半日で飽きました。一度経験すれば満足です。いつから食客は、囚人と同レベルになったのか」
「おいしくなかったのですね」
素直な感想が聞けて、ラキアスは満足げである。
「いえ、ここのカレーに勝る料理はないのです」
コデロはずっと、ミレーヌのカレーが恋しかったらしい。
レプレスタの食客など、引き受けるのではなかったと、後悔している様子だ。
「あたいも同感だね。あんみつを毎日食べられるなら、お貴族様の料理が一生食べられなくたっていいくらいさ」
ミレーヌの料理が素晴らしい。二人の戦乙女の意見が一致した。
「それにしても、新メニューはバッチリのようですね」
今回食べたのは、ミレーヌの考案した新作カレーだという。
ベースはスープカレーだった。
具はペースト状の野菜と、骨付きのチキンだ。
米も白米ではなく、サフランライスを用いたような。
「わかった? スープカレーにして、スパイスを強めにしたの。エルフに出すときは、ゴハンも豆を追加して、ハーブも利かせるようにしているわ。ボリュームも少量にして」
ビーフカレーが売りだと思っていたが、チキンにも合う。
「よく考えられたメニューかと思います。やはりミレーヌは天才ですね。こんなメニューを一人で考案なさって」
「いいえ。ラキアス様が考案してくれたのよ?」
意外な人物の名前が出て、コデロは驚く。
「エルフの一般人を集めてあたしのカレーを食べるように、ラキアス様が指示したの。で、感想をもらって、改良を重ねたのがこれってわけ」
現地の好みは、土地の人間に聞かないと、と思い知らされたと、ミレーヌは語る。
「大した人です。これだけの成功を収めている人は、たいてい増長してしまうものです。けれど、ミレーヌの探究心には頭が下がります」
「そんな大層なものじゃないわ。この土地の人と仲良くなりたいだけ、かなぁ」
頬杖をつきながら、ミレーヌは笑う。
「あたしの味を押し付けたんじゃ、お店が繁盛したって言えないわ。この地にだって、好みがあるんだから。あたしはこの地に馴染める味が作りたかったの」
ミレーヌは売上より、まず客の笑顔を優先する。
見ていて気持ちがいい。
「あなたは、澄んだ心をお持ちですね。癒やされます」
「どういたしまして」
ミレーヌの話を聞きながら、コデロは考え事をしていた。
『どうしたんだ、コデロ?』
「そうです。お話しにいくのはどうでしょう? 妖精の森に、お話を伺いませんか?」
『なるほど。いい考えだ』
よくよく考えてみたら、レプレスタの王家とは会話していたが、エルフ族とはまったく面識がない。
コンタクトを取ってみたら、敵の正体を探れるかも。
エルフ族を恐れず、ミレーヌは話を聞いて回ったのだ。
コデロも見習おうと思ったのだろう。
『とはいえコデロ、コネクションはあるのか?』
「いい方がいらっしゃいますよ」
善は急げと、コデロはとある場所へ。
「それで、吾輩の元へ来たと?」
コデロがゲストとして選んだのは、ノアとダニーである。
魔法石の有効活用という名目で、二人に対話を担当してもらうことにした。
ノアのホームである
「吾輩はドワーフだ。エルフ族、それもウッドエルフとは犬猿の仲だと知ってて、誘っているのかい?」
太古の戦争で、ドワーフはエルフと技術を競い合っていたという。今もその因縁は根強いらしい。
「あなた以外の適任者はおりません」
一度断られたくらいで、コデロはめげなかった。
「魔除けを製造して、あなたはライバルであるエルフ族を守っている。きっと話し合いの場に応じてくれますよ」
「ドワーフであることを断る条件にするって言ったらよぉ、俺だってノームだ。条件は同じさ。ノア」
ダニーが、コデロに助け船を出す。
「わかったよ。すぐに用意する。ラキアス、キミは我々が森に入れるよう手配してくれ」
「もう、しておりますわ」
気がつくと、アテムの姿がない。
先にエルフの森へと向かったようだ。
「あなた方が来るとの報は、アテムに手紙としてもたせています」
「仕事が速いね。さすができる貴族は違うよ」
ノアが指を鳴らす。
「エルフ王には、土産話があるんだ。エルフ族の闇を暴く内容なので、伝えるべきか悩んだけれどね」
「ああ、あの話か。俺も聞いて、目ン玉が飛び出たよ」
思わせぶりにノアたちは言った。
言葉の続きを、コデロは求める。
が、「当日までのお楽しみ」とノアにはぐらかされた。
「出発は、明日だ。その前にラキアスとお城へ行ってきな」
「ありがとう、ダニー。ノアも。では、行ってきます」
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