スケルディング教授

「おお、コデロ! 無事だったか?」

 帰還すると、大柄の女性にハグされた。大きな盾を持ったアテムである。


「アテム。ちょっと締め付けが強いです」


 コデロとアテムが、お互いの再会を喜ぶ。


 ケガがないところを見ると、アームド・システムは無事に機能したらしい。


「あなたも、戦乙女になったとか」

「疑似の戦士だけどな。あたいの活躍、あんたにも見せてやりたかったぜ」

「そのうち、いやというほど拝見することになります」


 ニコニコしていたアテムの顔に、緊張が走る。

「やっぱ、相当ヤバい状況なんだな?」


「はい。この件にアロガントが関わっていることは、聞きましたよね?」


「ああ。城が大騒ぎになってる。ついでにエスパーダの正体もバレちまった」


 イクスには、話さないといけないことが多い。

 コデロも城の中へ。


 応接室で、王族たちが集結していた。 


「国王とディアナ様におケガは?ですか、イクス?」


 イクスが無事なのはわかっている。

 それより、イクスが守るべき相手がどうもしていないか心配だ。


「ご覧のとおりですわ」


 ディアナも王子も、レプレスタは多少の兵を除いて無事である。


「ですが、エスパーダとしての行動は自粛せよとのこととなりましたわ」

 さっきまで勝ち気だったイクスが、ガックリと肩を落とす。


「当然だろう! お前は王女なのだぞ! いくら強いとはいえ、お前にもしものことがあったら」

「鍛え方が違いますわ。放っておいてくださっても構いませんのに」


「そうはいくか! 娘を心配しない親がどこにいる⁉」

 テーブルに両手を叩きつけ、うんざりしたように王は言い放つ。


「末娘ディアナも、王子への発表会で張り切っているんだ! 見届けてやらねば!」

「ディアナの件について、おうかがいしたいことがありますわ」


「王子とのご関係だろう? 話し合ったよ」

 国王は着席して、ため息を漏らす。


 ジョージ王子は、隣りにいるディアナと手を繋いでいた。


 二人の交際は、コデロの耳にも入っている。

 聞いたときは驚いたが、二人の問題なので気にしていない。


「二人が愛し合っていることに、我々は口出しできぬ。しかし、お世継ぎの問題となると」


「余の兄上は、奥方様との間に子を授かっている。世継ぎは気にせずともよい」


 奥方は現在、妊娠八ヶ月ほどだという。


「ですが、ジョージ様も一国を背負うのならば」


「余は、兄上をサポートできればそれでよいと思うておる。世継ぎを考えている余裕があるなら、ディアナと過ごしたい」

 王子は言い切る。


「ディアナ様、部外者が口を挟むのはどうかと思ったのですが、質問にお答え願えますか?」

「ええ。お構いなく」


「いつごろから、身体を患っていらっしゃるので?」

 コデロを通して、さりげなく聞いてみた。


 リュートには、ディアナの体調不良が人為的なものだと分かっている。

 ただ、原因がわからない。


 これまでの食事風景から、料理に一服盛られている形跡も見当たらなかった。

 

 もし毒なら、コウガは瞬時に見分けられる。

 

 でなくても、王族なら毒見役くらいいるだろう。


「して、どのような意図のご質問なのですかな?」

 やはり気分を害したのか、国王はコデロを問い詰めてきた。


「お父様、妹の身を案じてくださっている方ですよ」


「だが、これでは我々が、ディアナを病気にしたような」

 イクスが王をたしなめるが、王も譲らない。


「そうは申しておりません。事実を知りたいだけなので」

 コデロも、遊びで聞いているわけではなかった。

 

 なんとしても、原因を突き止める。

 もし、怪人絡みなのだとしたら。


「楽団に入るよう、ピアノを習ってからですわ」


 となると、プレッシャーからという線が浮かぶ。


「そうですか。緊張なさいますからね」

「ええ。私は優れているわけではないですから、打ち込みすぎたのかも知れません」


 とはいえ、それだけで体調にまで支障が出るだろうか?


「コデロ殿、今日はもう遅い。お話は明日にしていただけませぬか?」

「承知いたしました。では、私はこれにて」

 言って、コデロは城を出ようとする。


「朝食は、お召し上がりにならないので?」


「調べ物がございますので。お気になさらず。では最後に、イクスと少々話し合いが」


 イクスとラキアス、アテムだけ残り、他の面々は解散となった。


「それでお話とは?」


『悪いが話したいのはイクスではない。ノーマンだ』

 テレパシーで、リュートはノーマンと通信する。


『ボクと?』



『ノーマン、聞いてくれ。あんたの師匠、スケルディング教授が、デヴィランとつながっているようだ』



『なんだって⁉』


 コデロと共に、リュートは事情を説明した。アロガント城跡で起きた出来事を


「その話、本当ですの?」

 イクスの質問に、うなずきだけでコデロは答えた。


『信じがたい話だろうが、コデロが言うには事実だ』 


『そんな。教授に限って。教授は、魔術と科学の融合を、世界平和のために役立てようとしていた。それなのに、デヴィランと関わっていたなんて』

 ノーマンのショックが大きい。


「ですが、私が見たのは間違いなくスケルディング教授でした。見間違えてなんかいません」


『たしかに、戦乙女へ变化できるベルトを再現できるとなると、教授しか浮かばない』


 そこまでの天才なのか。


『多分、今までで一番厄介な相手が敵になる。ボクも警戒しておくよ』

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