凶悪な敵、怪神!

「深追いするな! ボスはコウガに任せるんだ!」


 ダニーの声も、冒険者には届かない。手柄に、目がくらんでいる。


「そうは言っても、絶好のチャンスだぜ!」

 魔道具を武装した冒険者一行が、コブラ大怪人に攻め込む。


「おのれ、コウガの出来損ないめ! 化身ケシンッ!」


 コブラ大怪人が、仮面を取り付けた。

 身体もスマートになり、蛇腹の装甲が目立つ。


『あれは、コウガ⁉』

 シルエットは爬虫類だが、その異形は類似のコウガと言えた。


「敵も、コウガもどきを開発していたとはね!」


 理屈はわかる。あのオオカミ大怪人だって、ドランスフォードを襲ったのは「コウガの力を奪うため」だ。


 人工的にコウガの力を得ようとする結論には、容易に至るだろう。おそらく、進化の鍵は背後にいる女性にある。


「これぞ怪人の究極進化、名付けて怪神カイシン!」


「へっ! 最強がどっちか教えてやらあ!」

 柄に魔力石をはめた大剣を、冒険者が振り下ろす。


「そうやって、エーススリーの連中は死んだんだぜ」

 ダニーが加勢に入った。


 コブラ怪神は、身体をくねらせる。

 冒険者の大ぶりな攻撃などなかったかのように、ヘビのごとくすり抜ける。指揮棒を振るかのように、コブラを模した杖をユラユラと動かす。


「あんたは、ワタシを楽しませてくれないようだねぇ」

 杖が、渦巻状のサーベルへと変化した。


「やべえ、避けろ!」

 ダニーの絶叫も虚しく、怪神はサーベルで冒険者の腹部を貫く。大剣の魔力石が、光を失い出した。


「生体エナジーを食っているんだ」

 ダニーが怪神に弾を撃ち込む。


 だが、まったく怪人は意に介さない。


「あんまりおいしくないねえ。鍛錬が足りないじゃないかえ?」

 コブラ怪神は、冒険者の生体エナジーを喰らい尽くす。干からびた冒険者を、ポイを放り投げた。


 怪神の毒牙は、ダニーに照準が向いている。


『貴様、許さん! コウガ・煌牙シャイニングフォーム!』

 コウガは、煌牙へと姿を変えた。赤い装甲のつなぎ目を、銀色の細い装甲がなぞる。


『よし。短時間で決着をつけるぞ!』

「はい。油断なきよう」


『トゥア!』

 コウガは跳躍し、ダニーと怪神の間に入った。


「その姿。フェンリルことヴァージル王子を殺したのはアンタだね? 死に際の映像を共有したのさ! それで再改造を施し、【怪神】という新たな力を得た! 今のアタシはフェンリルとも互角!」


『今のオレは煌牙! 貴様のような悪党に、オレは絶対に敗けん!』


「ガキが粋がってるんじゃないよ!」

 螺旋状のサーベルが、ヘビのように伸びる。


 ダブル短剣で、コウガは攻撃を弾く。


「この【怪神・メデューサ】を相手にしたのが、お前の運の尽きさ!」

 相手も素早い。ケンカキックでコウガの胸部を蹴り込んだ。


「ぐふううう!」


 紙一重で威力を殺したものの、凄まじいパワーだ。

 煌牙でなければ、どうなっていたか。


「終わりだよ、コウガ!」


 勝利を確信したらしきコブラ大怪人が、サーベルを胸の前で構え、魔力を充填させる。

 サーベルに電光が走った。怪神は、突きの体勢へ。


『なんの! 憤激・改リ・ボルケーノ!』

 不完全ながらも、コウガは憤激・改を発動させた。


『シャイニングキック!』

 カウンターの前蹴りを、コウガは怪神に浴びせる。


 サーベルを持っている手を、コウガのキックが吹き飛ばす。


「げぼおおおお⁉」

 大怪人は肩の傷を押さえた。腕を失い、のたうち回る。 


「くそお、やはりオリジナルのほうが一枚上手か!」

 怪神の変身が解除された。若い女性ではなく、老婆の姿に。


『とどめだ……ぬお⁉』


 静観していたローブの女性が、老女王の正面に立つ。コウガに後ろ回し蹴りを浴びせてきた。


 とっさに、コウガはのけぞる。


 軽く触れただけなのに、コウガは大きく後ろへふっ飛ばされてしまった。


 コウガはガレキに、頭から突っ込む。


 ダメージはない。

 

 キックに、強力な風魔法が上乗せしてあったらしい。


 ローブが風に舞って、わずかに女性の顔が見えた。

 顔半分が透明になっている。

 白い顔の骨が、コウガの目に飛び込んできた。

 表情に乏しく、この世すべてが気に食わないように見える。


スケルトン教授! 腕がぁ!」

 暴れまわりながら、コブラ怪神がわめく。


「黙れ。今日は試運転だ。引き上げるぞ」

 女性は、地べたを這う女王のアゴをボールのように蹴った。

 まるで物を扱うかのように、髪の毛をひっつかみ。


『待て!』


 追撃しようとしたが、敵が腕を振って地面を爆発させた。


 土ボコリが行く手を遮り、コウガの視界を奪う。


 コウガは完全に、標的を見失った。


『逃げられたか』

 誰もいなくなったアロガント城跡に、コウガは立ち尽くす。


 武装を解除し、コデロは息を整える。


「やったな、コウガ。新しい魔道具の出来も、上々だ」

「言ったろ? オレの科学力は完璧だってな」

「犠牲者は出てしまったが、今度は負けぬ」


 戦没者を弔い、後始末は冒険者に任せた。自分たちは、襲撃されたレプレスタに戻らねば。



「あの女は……」

 アゴに手を抑えながら、コデロは考え事をする。


『知っているのか、コデロ?』


「コートニー・スケルディング教授。私の兄ノーマンの先生だった、魔法学の権威です!」


 さっきの女性が、ノーマンの。


『ではそのスケルディングが、怪人になったと⁉』

「経緯は分かりません。ですが、事実です」


 バカな。ノーマンに、どう説明すればいいのだ?

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