イクスにも衣装
『ボクが死んだ後、こんな目にあわされていたなんて』
『ノーマンも、大変だったんだな』
スマートイレブンに拉致され、魂だけをベルトの宝玉に移されたらしい。
『オレが地上で戦ったのは、あんたの肉体だったんだな』
実は、リュートがコデロと会う前に倒したオオカミ怪人は、ノーマンの肉体だった。
身体だけとなったノーマンを改造し、地球への転送に耐えられるかのチェックをしていたらしい。脳まで改造され、操り人形にされて。
『改造されていたとは言え、あんたの身体を破壊してしまうとは』
『気にしないでよ、リュート。どうせ元には戻らなかったさ。それに、ボクはこんな姿になってさえ、イクスと一つになれた。公開はしていないさ』
イクスが、自分の体を抱きしめる。
「まるで常時、夜の営みをしているようですわ。四六時中、身体を見られていますもの」
『意識しすぎぃ!』
自意識過剰なイクスに、ノーマンが抗議した。
『しかし、間接的にとはいえ、オレはキミの兄さんを』
話を聞いた限り、リュートはノーマンを殺したことになる。
「気になさらないでください、ベルト様。兄上は、スマートイレブンに殺されていたのです。あなたが兄上を介錯したと思えば、よろしいかと」
「そう行ってもらえると、肩の荷が下りる」
こういうときの、コデロは強い。悲しみを引きずらないのだ。
「ドランスフォードを奪還なさったのですね。お一人なのに」
「一人では、なにも成し遂げられませんでした。仲間がいなければ、ここまでたどり着けませんでした」
コデロは謙遜するが、イクスはなおも称賛する。
「ワタクシが同じ目に合わされたら、敵の殲滅だけを優先するでしょう」
「あなたは、家を出たがっていましたからね」
事情を知っているらしい、コデロが言った。
「ワタクシはワタクシ。家は関係ありませんわ。一刻も早く、自立したかった」
彼女には、優秀な姉がいる。
なのに、家に縛られているのが何より気に食わなかった。
「妹のディアナさえ無事なら、特に家なんて放棄しても構いませんの」
「まだ一二歳でしたね」
「ええ。カワイイ盛りで。ついこの間も、どなたかと文通なさっていましたわ。ですが、頑なに文面を見せませんの! あまりに初々しくて、イジワルしたくなってしまいますわ!」
相当な姉バカぶりを、イクスは披露する。だが、すぐに彼女は我に返った。
「とにかく、妹が無事に結婚するまでは、エスパーダを止められませんの」
「素敵な殿方が、見つかるといいですね」
「それはそれで寂しいですわ! あの子カワイイから! 引く手あまたですわ!」
もし、妹君が嫁に行けば、イクスはこのまま湯に沈んでしまいそうだ。
「お気を確かに。出ましょう。王子がお待ちです」
「そうでしたわ」
湯から上がり、二人は髪を乾かす。
「わたくしは、王子と会います。あなたも、一応顔をお出ししたほうが良さそうですわね」
コデロはイクスから、手頃な衣装を受け取った。
『妹がお世話になっています。リュート』
『オレのほうが助けられてばかりだ』
リュートはタダの特撮オタクで、実際に活躍できているとは思っていない。
「ベルト様には、お世話になっています。兄上」
『よかった。リュートとうまくやれているのだね』
ノーマンの声のトーンが落ちる。
『ボクはあなたを、危険にさらしてしまった。リュート。本当は、ボクのほうが妹と手を取り合わなければならないのに』
『オレが望んでやったことだ。気にするな』
リュートは、ノーマンを励ます。
『あなたのデータだが、非常に興味深いね。リュート』
特撮番組の殺陣・格闘技術や武装など、惜しげもなくノーマンへと送り込んだ。
『オレも、マフラーは欲しいと思っていたのだ』
エスパーダの衣装から、リュートはマフラーの製法を思いつく。余っている赤い布地を拝借して、ベルトに収めた。
コウガの新装備を、リュートはベルト内の仮想空間で作り上げる。
『うむ。しっくりくるな。魔法の技術で裁縫しているから、魔法攻撃も防げるぞ』
『この刺繍は、ボクが開発したんだ。自身の魔力を増幅させる機能と、敵からのダメージを軽減する効果がある』
マフラーにエスパーダと同じ刺繍を施し、魔法への耐性を持たせた。
『こんなにも情報を共有できるとは、思っても見なかった。特撮というのかい? 非常に関心を持ったよ。あなたの世界にも、英雄がいるのだね?』
『そうなのだ。フィクションとは言え、強い英雄がたくさんいるんだぞ!』
『ボクも情報を共有したことで、がぜん興味が湧いてきたよ!』
だが、盛り上がってばかりもいられない。
すでに、イクスは着替え終えている。
王子を待たせるわけには。
「コーデ……今のあなたは、コデロでしたわね?」
イクスは、ブルーのドレスに着替えている。エスパーダとして活動するようには思えないほど、エレガントな出で立ちだ。ただし、後ろから見た場合だが。
「似合いますかしら、コデロさん」
前から見ると大胆なミニスカートとニーソックスなのが、活動的な彼女らしい。
「とても良くお似合いですよ。イクス……様と、お呼びしたほうがよろしくて?」
わざと仰々しく、コデロはイクスに挨拶をする。
「身分的には大差ないでしょう。イクスで結構ですわ。冒険者なら、多少礼儀を知らなかろうが大目に見てもらえますから」
「ご面倒をおかけしますね」
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