ジョージ・イスリーブ王子
「よよ、余がジョージ・イスリーブ、だだ第二王子である」
まるまると太った少年が、その場の貴族たちにオドオドした様子で挨拶をした。
見た様子では、誰も彼のことを嫌っていない。王子が勝手に周囲を警戒しすぎているだけだ。
「きょ、今日は、余を招き入れてくれて、礼を言う。ああ、ありがとう」
あまり慣れていないのか、もっと尊大に振る舞ってもいいのだが。
「怪物に襲われたときは、皆が余を守ってくれた。感謝しておる」
そこだけは、ハッキリとした口調で告げる。実に好感の持てる男性だ。
挨拶もそこそこに、アフタヌーンティーをいただく。
知り合いもいないコデロは、隅で料理をバクバク食べていた。
下品だろうが、コデロ遠慮はしない。イエローの眩しい、太陽のようなドレスを着ているのに。
『それ以上食うと、ドレスが破けてしまうぞ』
「誰に口を利いているのです? ベルト様」
辛辣な意見が、コデロから返ってきた。
「久々にこういうお上品な料理を食べました。ですが、以前ほどおいしく感じません。舌が庶民に変わったのでしょうね」
コデロと呼ばれる前のコーデリアが、どんな生活を送っていたか、リュートは知らない。きっと、何不自由なく暮らしていたのだろうとは思う。
リュートが知っているコデロは、食いしん坊のコデロで十分だ。
「コデロさま、こちらです」
不意に、コデロは誰かに背中をツンツンされた。振り返ると、ラキアスがいるではないか。
いつもとは違う、パーティドレス姿のラキアスが。
「これは、ラキアス様」
「ウフフ。ご一緒してもよろしくて?」
「ぜひ。少々なじめませんので」
ラキアスに混じって、コデロはお菓子を楽しんだ。
知っている人物がいるだけで、食欲も湧いてくる。
「肩が凝っているのでしょう、コデロさま」
さすがラキアス、コデロの現状を簡単に見透かす。
「はい。どうもこういう席は苦手でして」
ミレーヌの作るカレーの方が、よっぽど美味しい。
「まさか、ラキアスお姉さまとコデロが、お知り合いだったなんて」
「ええ。彼女は命の恩人なのですよ」
「そうと分かっていましたら、エスパーダとなって張り合ったりしませんでしたわ」
「まあ! もうやり合いましたのね! おほほ!」
愉快そうに、ラキアスは笑う。
『相当強かったよな、コデロ』
「はい。腕はまったく衰えていませんでした。それどころか、戦乙女に変身する能力まで獲得し、手がつけられなくなっています」
コデロとリュートは、事情をかいつまんで説明した。
「そんな。ノーマン王子も」
「ええ。すでに敵の手に落ちていました。二人が手を取り合っていることは、まさに奇跡かと」
話を聞き終えたラキアスが、国王と並んで王子と語らうイクスを眺めた。
「それにしても、とうとうイクスもお嫁さんになるのですね」
イクスは仏頂面になっている。退屈な様子を隠そうともしない。
「どうして、あそこまで国王を遠ざけるのです?」
「父が、母を守ってくれなかったからですわ」
国王は、母親より、まだ幼かったイクスを優先して守った。
そのせいで、母親は死んだとイクスは考えているらしい。
自分の身は自分で守れるのに! と。今でも。
「それ以来、イクスは父の命令なんか全然聞かなくなりました。父も、イクスの説得を半ば諦めていまして」
話を終えたイクスが、こちらへ歩いてきた。
「どうでした、王子の印象は?」
「まだ一三歳位でしょうか。歳はやけに離れている気がしましたわ」
全体的に幼く、ぽっちゃりした印象だったらしい。
「拍子抜けでしたわね」
イクスが、お茶会の様子を教えてくれた。
どうも王子は、イクスと結婚する気はないらしい。
それよりも、
イスリーブもレプレスタの魔法石をアテにしている。
「こちらから兵を出す」と、王子は言ってくれたらしい。
レプレスタ王は見栄を張らず、全権をお任せすることにした。
「こちらからも兵を出しますが、イスリーブの私兵の足を引っ張るのがオチでしょう。わたくしも参戦したいのですが。立場上、この場を離れるわけにはいかず」
「お任せください。そのために、私がいるのでしょう?」
コデロは、今にも飛び出しそうな様子である。
「仲間をドランスフォード跡地の観察任務から、呼び戻しています。彼らと情報を交換なさって。彼らと通じて依頼を受けるのもいいでしょう」
「分かりました」
「エスパーダは休業しますが、わたくしには信頼できる仲間がいます。どうかご無事で」
「私は死にませんよ。イクス」
話をしながら、イクスは度々王子の方を見ていた。正しくは、王子が見ている先を。
王子が見ている先には、十歳前後の小さな女の子がいた。
彼女の方も、王子に手を振っている。
どうやら王子は、女の子と話したそうにしていた。
が、レプレスタ王がピッタリくっついていて話せない様子である。
「どうしました? イクス」
「なんでもありませんわ」
「あの子は?」
「ああ、妹のディアナですわ」
彼女が、イクスの妹か。
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