イスリーブ国王と、故ノーマン王子
広々とした安全な道を使い、特に魔物の気配もない。
馬車を使わず、ダニーの車両を利用している。ダニーが運転をして、王の向かいに、コデロは座っていた。
ノーマン王子の墓前にて、イスリーブ王はヒザをつく。
手が震えている。よく見ると涙を流していた。
「キミのお兄さんとボクは、親友同士でね。お互いの子どもたちを結婚させようよと、話し合っていたんだ」
しかし、兄は命を落としてしまう。
「さぞ無念だったろうね」
「しかし、ノーマンには王という同士がおります。きっと安心して逝けるでしょう」
コデロは、優しく王の肩に手を添えた。
「ありがとう。コーデリア王女」
「ここでは、コデロとお呼びください」
「そうだったね、コデロ」
城下町や、周辺も見て回ることに。
「ひどい有様だ。デヴィランとは、ここまでやるのか」
ラキアスが連れてきた人手が、ガレキを撤去している。
王に気づいた一人が挨拶をしようとした。
しかし、王は手で制し、作業に戻らせる。
「私も手伝ったのですが、まだ何も手を付けられない状態でして」
広大な土地でミレーヌのスパイスを栽培し、各都市に売り込んでいる。それでかろうじて、村として機能している程度だ。
「あのー、こんにちは。ここの責任者ってのは?」
二人組の冒険者が、コデロに頭を下げた。
一人は女剣士だ。細身の剣を携え、長い黒髪が印象的だ。
もうひとりは、チャラいレンジャーである。羽のついたベレー帽をかぶり、背中には弓をかけていた。微量の魔力が漂っていて、握る部分に魔法石が付与されている。
特徴的だったのは、どちらもエルフだったことだ。
「陛下、しばしお待ちを」と、コデロは王のもとから離れた。
「私ですが。コデロといいます」
「どうも。オレはクリス。こいつはレンゲだ」
「レンゲです。どうも」
クリスは見た目通りあいさつもチャラいが、レンゲは丁寧な口調である。
「見たトコロ、シティエルフの方々みたいですが」
「そーなんだよ。俺たちは、レプレスタから派遣されたんだ」
イスリーブとドランスフォード、二つの国との間には、レプレスタという小国がある。森に囲まれた城で、エルフが統治していた。
「エルフ王国ですか。どうしてまた」
「エスパーダだよ、エスパーダ」
めんどくさそうに、クリスが語る。
「そいつから、ここのガードを依頼されたんだよ」
「亡き友のためだ、とおっしゃっていました。報酬は、エスパーダが支払うと」
クリスに続き、レンゲが語った。
コデロが、難しい顔をする。
『エスパーダとは、何者だ?』
リュートが聞くと、コデロはため息をついた。
「古い友人です。何かと喧嘩をふっかけてきたので、覚えています」
コデロが考え事をしていると、手を上げてクリスが尋ねてくる。
「オレたち、何をしていればいい? 何にもねえんだが?」
確かに、戦闘要員に「畑を耕してくれ」とは頼みづらい。
「周囲を巡回してください。怪しい影などがあれば、スパートタグで連絡を」
「承知しました」
クリスに代わり、レンゲが答えた。
「おまたせしました。ご帰還の準備を」
「うむ。キミのいない間、だいたいのことは、把握した」
イスリーブ国王が、コデロに今後の方針を話す。
「手が空いた冒険者たちを手配する。報酬はこちらで支払おう。腕の立つ大工なども配備して、少なくとも街としての機能を取り戻させる」
「そこまでなさらなくても」
「一人では、限界があろう?」
図星をつかれ、コデロは黙り込んだ。
実際、コデロはドラスフォードに残っていた財産をすべて、国の復興に当てている。それでも、人件費すらまかなえていなかった。
「旧ドランスフォードは、この大陸でも有数の中心的な都市だった。一時期は、イスリーブを凌ぐほどだったとも聞く」
ドランスフォードは水の豊富な土地で、農作物の生成には困らない。
きれいな水は、ポーションの材料としても最適だ。毒などで水が死んでいたら、この復興さえままならなかっただろう。
「街に活気が戻れば、我が国も潤うというもの。恩は、そのときに返してくれればよい」
「ありがとうございます。陛下」
請求書や事務手続きなどは、ラキアスに回すという。
「礼には及ばない。キミにはもう一仕事、頼みたいからね」
「なんなりとお申し付けください」
ここまでお膳立てをしてくれたのだ。
「では、ボクの息子を護衛してくれないか。縁談があるので向かいたい」
「仰せのままに」
「本当は、キミのような女性こそ、息子の后にしたいのだけれど。先方がどうしてもというので。あまりにうるさくて、つい」
「もったいなきお言葉です。陛下」
実際、こんな身体でなくても、コデロは縁談は断っていただろう。
デヴィラン殲滅しか考えられないから。
「しかして、どちらの国まで?」
「レプレスタ王国だ」
「えっ」
コデロを通して、悪寒が走った。
『どうかしたか?』
「国王が話していたレプレスタは、エルフが収めているのです」
リュートは、コデロと脳内で会話する。
レプレスタ王国はコーデリアに、因縁が深いらしい。
「特に三女とは、因縁がありまして」
『帰ったら、詳しく聞く』
リュートは引っ込んだ。
「では、縁談の相手というのは」
「イクス第三王女だ」
「そうですか……」
後に聞かれないよう、コデロは小声でつぶやいた。
「あの『エスパーダ』に、縁談ですか」
これは一波乱ありそうだ、と。
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