キノコ怪人 【マタンゴ】

 コウガは、冒険者や騎士団の装備する、魔道具マギアテストをしていた。


 剣や弓、思い思いの魔道具を装備した冒険者たちが、レイジングフォームのコウガを取り囲む。


 前方には、騎士の一団が。


 テストの立会人は、魔道具制作の責任者、ノア・ハイデンだ。


 ダニー・バンナも、審査スタッフとして参加している。


「始め!」


 ノアの号令で、冒険者たちが一斉にコウガへと襲いかかった。


 コウガの武器は、片手持ちの剣、二刀流のみ。


 冒険者の一人が、剣を振り下ろす。魔法で強化された剣から、衝撃波を放った。


 緑色に輝く光の刃を、コウガは跳躍で飛び越す。


 それを見越して、鉄の矢が飛んできた。後方の狩人が、すでに準備していたのである。


 コウガは二刀流で弾き返そうとした。


 しかし、弓の起動が変わる。まるで矢が生きているかのように。


『いかん!』

「慌てないで」 


 焦るリュートとは対照的に、コデロは落ち着いていた。

 逆手に剣を持ち、矢を迎え撃つ。

 ギリギリまで矢を引きつけ、柄頭で殴り飛ばす。

 無数にある矢を、コウガはすべて弾き飛ばした。


 これには狩人も舌を巻く。第二撃を構えようとした。


 しかし、コウガはすでに狩人の背後に立つ。手刀で相手の首を打ち、昏倒させた。


 タンク役の騎士が、前に出てくる。


 コウガが斬りかかった。が、中央にある宝石によって、攻撃はすべて吸収されていく。


「大した威力です。が」

 コウガはローキックを放つ。

 

 騎士の顔が、むき出しになった。


 すかさず、コウガはラリアットを繰り出す。


 重装甲を誇る巨体が、コウガのラリアットに寄って一回転した。


 再び、緑色の衝撃波が襲ってくる。


 さっき倒した騎士の盾を、コウガは構えた。

 衝撃波を弾き飛ばす。

 そのまま片手で攻撃を受け止め続け、シールドバッシュでとどめを刺した。


 まだ、冒険者たちが残っている。


「面倒ですね」

 シールドをフリスビーの要領で投げ飛ばす。


 残った兵士たちが、すべてシールドの衝撃によって気絶した。


「それまで!」

 コウガの圧勝で、テストは終了する。



「まったくダメだな。コウガ相手では強すぎて、テストにならん」

 戦闘結果をメモしながら、ノアがため息をつく。


「いいじゃねえか、別に。ゴーレムだと動きが単調すぎて、兵隊の訓練にならん」


 ダニーは言うが、ノアは納得行かない模様だ。


「魔道具の効果を試すテストだよ? 威力だけ見れば良くないか?」


『そうはいかん。変にパワーのある武器だと分かってみろ。ムダに増長して、無茶をするぞ』


 ノアが製造した魔道具は、なまじ威力が高い。

 これによって気を良くした冒険者が、後を焦っていたずらに怪人と戦闘になったら。


「たしかにそうだ。負けただけならともかく、逃げられずに魔道具まで奪われたら目も当てられん」


「だろ? だから、敵わねえヤツと戦闘するくらいがちょうどいいんだって」


 ダニーの説得に、ノアもようやく合点がいったようだ。


「そのようだ。どこぞのバカが、やらかしたらしいしな」

「何だって?」

 ダニーが聞き返そうとした、その時だった。


「大変だ!」


 コウガが変身を解こうとした矢先、助けを呼ぶ声が。



「イスリーブ近辺の森に、デヴィランの残党がいる」


 との情報を聞き、コデロは飛び出した。


 森で人を襲っていたのは、キノコ怪人である。


「ワシはキノコの魔物【マタンゴ】! 新鮮な人間よ、ワシの餌となることを誇りに思うがいい!」


 キノコ怪人は、口から毒々しい胞子を撒き散らす。


 すでに数名がキノコの胞子に当てられ、自身もキノコ怪人にされてしまっている。


 その中には、若い冒険者の姿もあった。

 手には、魔道具が収められている。

 ノアの言うとおりだ。なまじ強い武器を手に入れ、有頂天になっていたのだろう。



『なんという卑劣な! 許せん!』

 リュートは、コデロの身体を借り、変身した。



『変身!』

 銀色のボディを持つコウガ、「ライジングフォーム」である。



「出たなコウガめ、喰らえ!」


 キノコ怪人が、自らの身体に生えているキノコを引きちぎった。コウガに向けて、キノコを投げつける。


『ぬお!』 


 足元に着弾し、爆発した。どうやら小型キノコは爆弾らしい。


 胞子を撒き散らしてくるこの怪人に、接近戦は不利だ。

 遠くから、銃で攻撃する。


『フィーンドバスターッ!』

 銃から光弾を発射し、小型キノコを撃ち落とす。


「ぬう、おのれ噂通りだな、コウガの強さ! しかし!」


 コウガの四肢を拘束する、無数の手が。

 胞子によってゾンビに変えられた人々が、コウガノ動きを封じている。


「ベルト様、振りほどきましょう」

『そうなれば、彼らを殺してしまう!』

「もう死んでいるのです!」


 こうしている間にも、キノコ怪人がジリジリとにじり寄ってきた。


「お前もキノコゾンビの仲間入りせい、げはははは!」


 やむを得ぬ。高温のガスを両手から放出して――。


「ぬう⁉」


 キノコゾンビたちが、一刀のもとに切り伏せられる。

 一瞬で、二桁ほどのゾンビが戦闘不能になる。




「あなたがウワサのコウガですか。大したことがありませんね」



 陽炎を連れて現れたのは、ふんわりしたツインテールのエルフだった。身体が細く、とても戦闘向きの体型ではない。

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