第一部 完 ヒーローの帰還

「ご面倒を、おかけしました。ノア」


「なあに、吾輩も楽しいものを見せてもらった。あのデヴィランの壊滅をね」


 イスリーブ、及び周辺のデヴィランは、消滅したという。


 おそらく、魔王ヴァージルという最高幹部が死んだことにより、下部組織もろとも絶滅したのだろうとのことだ。


「けれど、まだデヴィランは世界中に存在する。片っ端から潰して回らねえと」


「我々の戦いは、これからですわ!」

 ダニーに続き、ラキアスも奮い立つ。


「さて、帰るか。ミレーヌのカレーが待ってる」

 ようやく、コデロに穏やかな笑みが戻ってきた。


「その前に、やることがある」

 そう言ってノアが持ち出したのは、ダイナマイトだ。


「この施設を破壊する。もう二度と、次元転送装置なんていうバカげた技術には誰も触れさせない」


『まったくだ。やってくれ』


「一応、身内に許可を取ろう。コデロ」

 コデロは何も言わず、一つうなずいた。


「ならば」と、全員でダイナマイトを設置していく。


「用意はいいかい。全員脱出だ」

 爆弾を仕掛け終えた全員が地上へ。


「スイッチは、キミが入れる権利がある」


 ノアはそう言うと、スイッチをコデロに渡す。




「赤いスイッチが||」




 説明半分だけ聞き、コデロはノーモーションでボタンを押した。


 盛大に、城の地下が炎を上げる。


 コデロは爆発の状況を、見ようともしない。それだけ、怒りが根深いのだ。


「本当に、ためらいがないな。こんなときは、少し間を置くものだよ?」


「デヴィランは生かしておけませんから」


 もうコデロは、再興のことを考えている。

 そのためには、デヴィランの技術など邪魔でしかない。

 一刻も早く消滅させる必要があった。


「申し訳ありません。デヴィランさえこの世界にいなければ、あなたは平和に暮らせたのに」


『いいんだ。デヴィランを壊滅させることは、オレたちの義務だから』


「ベルト様、あなたは自分の正義を貫いて。私があなたを妨害する悪を倒します。あなたの前に立ち塞がる悪を滅ぼすこと。それが私の役目です」

 コデロの決意は固い。これが最善の決断なのだろう。


「私の怒り、どうか役立てて」


 リュートはもう何も咎めない。コデロの生き方を受け入れる。


『分かった。キミは、悪を祓う剣となってくれ。オレはキミを守る鎧となり、弱き者から悪を守る壁となる』


「はい。あなたが『正義の味方』なら、私は『悪の敵』となりましょう」


 いよいよ、本格的な復興の始まりだ。困難は多いだろうが、ノアやラキアスも援助してくれるという。

 

 イスリーブへ帰宅途中、フーゴの街へ立ち寄った。


「ミレーヌ!」

 

 フーゴの純喫茶には、ミレーヌが。アテムにガードしてもらいながら、ここまで来たという。


「一旦、お風呂に入りましょ。もう砂ボコリで咳き込みそう」


「はい。カレーも食べたいです」

 コデロの腹が鳴った。

 ようやく、空腹を訴えるほどに緊張がほぐれたのである。


「わたってるわよ、コデロ。お腹いっぱい食べてね」

「いただきます」


 久々のカレー、今から楽しみだ。


「その前に、おっかあにあいさつを済ませるぞ」


 ダニー、ミレーヌ父娘と共に、コデロはフーゴの墓地に報告する。

「おっかあ、ただいま。全部終わったぜ」

 どれだけ、時間が掛かったのだろう。コーデリアはついに、ドランスフォードの奪還に成功した。


 とはいえ、もう滅びた国である。国民もいないので、統治すらできない。一からやり直しだ。


「わたくしが、城に資金を提供してくださる方を当たってみますわ」

 ラキアスが、そう言ってくれた。先にアテムたちとイスリーブへ帰るという。





 数年ぶりのように久しいカレーに、コデロはようやくありつく。


「おやっさん。今までありがとうございました」



「いやなに、俺も世話になった。お前さんと会わなければ、フーゴを、ミレーヌを守れなかっただろうさ」


 思えば、コデロがミレーヌを助けたことから始まった縁だ。



 しかし、もう甘えるわけには行かないだろう。


 二人には、デヴィランとの因縁など関係なくなる。



「これからは、私一人の戦いになります。もう、あなた方を巻き込むわけには」


 コデロの言葉を、ダニーは遮った。

「いいってことよ。もう俺とお前さんの仲だ。最後まで付き合うぜ」


「あたしも! カレー食べたいでしょ?」

 二人の優しさに、コデロは心から感謝する。


「では、お言葉に甘えます」

「よっしゃ、イスリーブへ戻ろう」


 ダニーの一言で、コデロはバイクにまたがった。


『む?』


 白い鳥が空を舞う姿を、コデロは眺める。まるで、コーデリアを祝福しているように見えたのだ。


「どうかなさいましたか、ベルト様?」


『なんでもない。それより、まだデヴィランの脅威は去っていない』

 リュートは気を引き締めた。


「だな。行くか」

「あたしも、他の街で稼いじゃうんだから!」

 ダニー親娘も、張り切っている。


『じゃあ、ひとっ走り付き合ってもらう』

「はい。参りましょう、ベルト様!」

 リュートが言い、コデロがアクセルをふかした。 




――妹を救ってくれて、ありがとうございます。




 リュートの耳に、そんな声が。


『オレの方こそ礼をいう。オレにも、誰かを救うことができるんだ、って分かったからな』


 リュートはようやく、見せかけだけではない本当の正義を完遂できたと思えた。


「誰とお話ししているのです?」

『気にするな、行くぞ』


 これから先、何が待ち構えているのか。


 しかし、悪がいる限り、コウガは戦い続ける。


 リュートとコデロ、二人で一人の復讐者ヒーロー


 コウガの旅路は、まだ続く。


(第一部 完)

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