リュートを連れてきた、女神の正体

 コウガは歩き回って、周囲を探索する。


『写真の技術もあるんだな』


 壁に、カメラで撮った写真が貼られていた。

 大半は焼けていて、見ることはできないが。


「懐かしいですね」


 もう見る影もない家族の写真を眺めながら、コデロは苦い顔をする。 


『コデロ、いやコーデリア。辛いなら目を逸らしたっていいんだ』


 かつての故郷の荒れ果てた姿の調査など、コデロにとっては辛いだけだろう。


「平気です。続けて」


『キミの精神が持たんぞ』

 それでも、コデロは構わないから、と譲らない。


[おい、コデロ! 残骸の下に、なにかがあるぞ!]


 ガレキの奥から、一枚の紙を見つけた。家族写真のようだが。


「これは、ドランスフォード家の写真ですね」


 コデロ……いや、もうコーデリアか。彼女は写真を眺めながら、しみじみとため息をつく。


 焼け跡に、唯一残っていた写真である。


『む、この人は!』

 写真には、よく見知った人物が。


『この女性は?』

「私です。この姿になる前の」

 写っている女性は、コデロの姿になる以前のコーデリアだという。


 あの時は炎に包まれていたから、見えなかった。が、こんな顔だったのか。


「ベルト様、私の写真が何か?」


『いや』

 リュートははぐらかす。


 言えるわけがない。「自分は、コーデリアそっくりの女性に召還されたのだ」なんて。


『実は、キミによく似た女性に心当たりがあるんだ。誰かに似ていると言われたことはないか?』


 真意を知られないように、慎重に言葉を選ぶ。


「さあ。姉によく似ていると、家族からはよく言われました」

『ナタリア、だったか』 

「はい。こちらです」


 別の写真には、ポニーテールの少女が写っている。

 音楽家を目指していたのか、少女は指揮棒を振って笑っていた。


 リュートは、その姿に強烈な既視感を覚える。


「姉が生きていれば、おそらく私と同じ容姿だったでしょう」

 なんとなく、分かった気がした。どうして自分が、この世界に召還されたのか。 





『そうか。キミだったのか……』

 自然と、リュートは涙声になる。




 リュートをこの世界に送り込んだのは、他ならぬコーデリアの姉・ナタリアだったのだ。





 まんまと、リュートは乗せられたのである。




 ベルトに召還させられたのも、コデロの顔を修復したのも、すべて辻褄が合う。



 全部、仕組まれていたのだ。



 でも、それはリュートにとってうれしいことだった。結果的に、一人の少女を救えたのだから。


「なぜ、あなたが泣いているのです?」

『泣いてなんかいない』

「いえ、どう見ても泣いていらっしゃる。私に同情しているのですか?」


 リュートは答えない。なんと声をかけていいのか分からなかった。


[コウガ、聞こえるか。ノアだ]

『何か分かったのか?』

[どうも、荒らされた形跡はないんだ。そこから先は何もないだろう。城を占領して、支配することじゃなかったんじゃないかな]


 だとしたら、次元装置とやらだけが目的だった可能性が高い。


[これは吾輩の勝手な妄想なのだが、嫌な言い方をするね。ドランスフォードの方々は、殺され損だったらしい]


「ならば、後悔させるまで」

 ノアの発言にも、コデロはブレない。


「あの男には、死ぬより辛い罰を与えます。そのために来たのですから」


 コデロの怒りが、リュートにも伝わってくる。早く城を取り戻したいという感情を、抑えているのだろう。


「次元転送装置は地下です。参りましょう」

 コデロは最小限の敵を沈め、地下へと続く通路を探す。


 怒りを戦う力に変えて、コデロは進んだ。



 地上になにもないと判断し、早々と地下へ。


 通路には、フーゴの洞窟や砦などで見られた、スチームパンク然としたパイプや配線が通っている。


 地下通路を通っていると、ノアから通信が入った。


[この不自然なまでに歪な構造、趣味の悪い建築技術。どうやら、我々の本当の敵が分かってきたよ]

「何者です?」



[スマート・イレブンさ]



「まさか! 彼らは何年も、我々ドランスフォードに仕えていたんですよ?」

 かつての協力者が裏切ったなど、コデロには信じがたいようだ。


[ちっとも、おかしくはないよ。キミの装備に対する不備、あまりにも手際のいい襲撃度合い、その上、地下研究所以外に関心を示さない徹底ぶり。どう考えても、今回の襲撃には計画性があるよね]


「そんな。では始めから、この騒動は仕組まれていたとでも?」


[おそらくは。主導は彼らだろう]


 次元転送装置に、目がくらんでの犯行だろうとのことだ。


[奴らは技術屋だからね。これくらい平気でやるのさ。知的好奇心に勝てなかったんだ]


 しかし、頑ななドランスフォードが邪魔になった。

 それで、利害が一致するデヴィランと手を組んだ。

 それが、ノアの想像したシナリオである。


[彼らの理屈からすれば、技術を独占するドランスフォードこそ目障りだったんだよ]


 コデロは、怒りに震えていた。


「ベルト様、私は、この憎しみを抑えることは、できそうにありません」


『コデロ。もう容赦するな。今のオレに、キミを止める気はない。キミはキミらしく振る舞ってもらいたい』


「感謝します。私は、彼らの鬼となりましょう」



 コード類が、怪しく光りだす。




[次元転送装置が、起動を始めた。急いた方がいいね]


「分かりました。直ちに彼らを……地獄へ転送させてやります」



 コデロは猛スピードで地下を降り始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る