ムーン・レイジング・キック

「おのれコウガめ!」

 怒り狂った怪人が、短くなった棍棒で殴りかかってくる。


 コウガは強引に、棍棒を掴んだ。


「こしゃくなコウガ! うご!?」

 足が地面から浮き上がって、怪人が驚きの声を上げた。


 コウガが、棍棒ごと怪人を持ち上げたのである。


「バカな、怪人の中でも力自慢な吾輩を、こうも軽々と!」


『お前の力など、成長したコウガには通用せん! いくぞ!』

 コウガは、棍棒ごと怪人を上空へ投げ飛ばす。


 落ちてくるバッファロー怪人を見上げながら、コウガはベルトの宝玉にパワーを集中させた。

 貯めたエネルギーを足へ充填させ、大地を蹴る。


『ムーン・レイジング・キック!』

 真上へ向けて、必殺の蹴りを放った。怪人の胸にヒットさせる。


「ぐおおおお! 栄光のデヴィランよぉ!」

 遥か上空まで跳ばされたバッファローの怪人が、空をオレンジ色に染めた。爆炎と黒煙が舞う。


「ちくしょう引き上げだ!」

 戦闘員たちが逃げていく。


 息を一つ吐いて、コウガは変身を解いた。


「ありがとうごさいます、ありがとうございます!」

 少女と母親が、コウガにしがみつく。


「もう、心配はいりません」

 コデロは、少女の頭を撫でた。


「とんでもねえな。俺たちが束になっても敵わない魔物を、一人で」

 ダニーが、驚きの声を上げる。


「この子、ウチの常連でよ。助けてくれてありがとうよ」

 照れくさそうに、ダニーが礼を言ってきた。


「けどよダニー、コイツは冒険者ギルドへ突き出すべきだ」

 冒険者の一人が、コデロを指さして抗議する。


「んだと? 恩人に向かってなんてコトを言いやがる!」

 怒りを露わにしたダニーが、冒険者に詰め寄った。


「こいつがオレたちの街に、怪物を呼び寄せたかも知れないんだぜ!」



 コデロは、冒険者の発言を否定できない。

 怪人たちは、コデロを探してここまできた。

 ならば、冒険者の発言は間接的とは言え、事実と言うことに。



 そうだそうだ、と周りも賛同し始めた。


 ここは、立ち去るべきか。




「バカヤロウ! んなわけあるかよ! もしそうだったらな、この女はガキを無視して戦っていたぜ。もしくは、一緒になって街を襲っていただろうよ!」

 ダニーが怒鳴ると、冒険者たちはおとなしくなる。

「自分の身を挺して、俺たちを守ったのは誰だ? フーゴの街を救ってくれたのは誰だってんだよ!」


 懸命に語るダニーの言葉を受けて、冒険者たちはすごすごと帰って行く。


「すまなかったな。ちょっと前まで安全な街だったからな、コイツらも気が立ってるんだ」


「いえ。もし迷惑でしたら去ります」

 また野宿になってしまうが、歓迎されていないなら仕方ない。


「コデロとか言ったな。ウチで休むといい」

「ありがとうございます」


「礼をいうのはこっちだ」

 ミレーヌの店に戻ってきた。


「お帰り。父さん、お疲れさま」


「おう。コイツの寝床だが、母さんの部屋を使ってもらうから」


 ダニーが言うと、ミレーヌがコデロにハイタッチをさせた。


「すぐにお風呂を沸かすわ。狭いけど、ガマンしてね。お父さん、コデロが一番風呂でいいでしょ?」


「ああ。好きにしろ」


 ダニーは上機嫌で、酒瓶へ直に口を付ける。


「お世話になります」

「気にするな」


 続いて、ミレーヌにも笑顔を送る。


「ごちそうになります、ミレーヌ」


「うれしい! ようこそ、コデロ!」




 温かい風呂までもらって、コデロは眠りにつく。


 こうして、夜は更けていった。

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