科学者 ダニー・バンナ

「ごめんなさい。父ってば、お母さんが亡くなってから、ずっとこんな感じで」

 ミレーヌが詫びながら、両手を合わせた。


「いいえ、お気になさらず」

 カレーさえ美味ければ、特に問題はない。


「もう、お父さん! この人たちは、わたしをモンスターから助けてくれたのよ!」

 ミレーヌが、今度は腰に手を当てて父をなじった。



「そうかい。そいつは悪かったな」

 彼の態度は、心からは詫びている姿勢ではない。が、人並みの礼儀は弁えているようだ。


「すごかったんだから、一〇匹いたモンスターを一瞬でやっつけたうんだもん! それも素手で!」


「バカ言うな」と、男性は鼻で笑った。

「徒手空拳でモンスターを倒せるやつなんて、モンクのマスタークラスくらいだ。そんなやつがこんな田舎町に」


「ホントだってば! コデロちゃんが『へんしーん!』って叫んだら、身体がビカビカって光って、ヨロイを着た戦士になって、パンチキック一撃で、モンスターが爆発したんだから!」




 男性の顔色が、ミレーヌの発言で変わる。




「ミレーヌ、誇張しすぎです」


「コデロちゃんの話を信じない、お父さんが悪い!」

 頬を膨らませて、ミレーヌは後ろを向いた。


「今の話、本当なんだろうな?」

 ダニーの鋭い視線が、コデロを射貫く。


「どうやら、ただの冒険者ではないようだ」

 酒瓶を置いて、コデロはミレーヌの父と向き合う。


「あんた名前は?」


「コデロ・シャインサウザンド」


「俺はダニーってんだ。ダニー・バンナ」


「ダニー・バンナ。するとあなたが!」

 コデロは、ダニーが何者か知っているようだ。


「俺が誰だか分かるのか?」

 ダニーが、重い腰を上げた。

「ドランスフォードの魔術協会を追われた、異端児としてなら」

 コデロが言うと、ダニーは「よく知ってるじゃねえか」と笑う。


『コデロ、彼は何者なんだ?』

「二〇年前、ドランスフォードの魔術学校に講師として在籍していたと」


 コデロが生まれる前だったので、語り草になっている程度だが、相当に腕の立つ科学者だったとか。



「だが、オレがドランスフォードにいたのは随分と前だ。それも、魔術学校の関係者しか知らん情報を、どうして一介の旅人風情が知っているのか……実に興味深いな」


「お父さん!」


「ミレーヌは引っ込んでろ! 魔物かも知れんからな。あるいは、どこかの国から来たスパイか……」

 ダニーが腰のホルスターに手を当てる。

 鈍色に光る銃が納められていた。


「そんな。コデロはそんな子じゃないわ!」

 カウンターから出て、ミレーヌがコデロをかばう。


「分からねえだろ!」


 たとえダニーに怒鳴られても、コデロの前に立ったままミレーヌは引き下がらない。 


 ダニーがコデロに詰め寄ろうとした、そのときである。


 突然、カフェの扉が開いた。息を荒らげて、冒険者が駆け込んでくる。冒険者は、非対日を流していて、腕も負傷していた。

「バケモンだ!」

 しきりに、窓の外を指さす。

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