カレーライス

 フーゴの街は、大きな風車が特徴的な、小さい街である。

 小規模と言っても、経済は成り立っており、活気に満ちていた。工芸品など、農業以外の産業も盛んである。 



 身を寄せさせてもらったのは、『純喫茶 ロッコ』という店だ。


「おかわりを」

 空になった皿を、コデロがミレーヌに差し出す。


「いくらでも食べてね」


「世話になります。おいしいですね、このカレーという料理は」

 コデロは、もう五杯も「カレーライス」をおかわりした。


 まさか、異世界でカレーライスを食べられるとは。


 リュートが異世界に来て、この事態にもっとも驚いた。

 味も食感もすべて、地球で食べる料理に限りなく近い。

 カレーに合わせているのか、米が固めなのも最高だ。


 ベルトなので、リュートに寝食の必要はない。

 が、コデロが回復する度に、リュートも機能がアップデートされていく。

 またコンディションの方も、コデロの感情に左右されるらしい。

 コデロには、いい気分になってもらった方がいいようである。


『カレーと言えば戦隊もの、というイメージは、もう古い。というかカレー好きのイエローは二人くらいしかいないんだ』


 単体ヒーローものでも、カレー屋は頻繁に出てくるのだ。

 アジトがカレー屋の戦隊があるくらいだし。


「戦隊……よく分かりませんね」

 コデロが首をかしげる。


『いや、こちらの話だ』


 いかん。思わず一人語りしてしまった。この世界の住人に話しても仕方ないのに。




「遠慮しないでね。たくさんあるから」

 ミレーヌが、木の尺で鉄製の鍋をかき混ぜる。


「ごちそうになります」


 まるで何日も食べていない感覚での、まともな食事だ。胃が膨れていくことが、こんなにも幸せだとは。


 一〇杯を平らげ、満たされたコデロは神に感謝する。

 一一杯目の前に、小休止を挟む。


「食後のコーヒーもどうぞ」

「いただきます」


 コーヒーの味は、喫茶店で出てくる味に近かった。

 もはやプロ級である。なのに、流行っていなかった。


「みんな珍しがってね。普段食べているものと違うから、戸惑っていて。食べていってくれるのは観光客くらいね。旅の土産話に、冒険者がちょこっと食べていくくらいなのよ」


 コーヒーは、みんな楽しんでくれるらしいが。


「おう、客か」

 酒瓶を手にした中年の男性が、コデロに鋭い視線を向ける。


「お父さん、また昼間からお酒飲んでるの? もう、お父さんの淹れるコーヒーは最高なのに」


「るっせえ。俺はもう、コーヒーは淹れないんだよ」

 うなだれながら、カウンターに腰掛けた。


「金はあるんだろうな?」


「お父さん!」

 心配そうな顔になりながらも、ミレーヌは父を怒る。

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