コデロ・シャインサウザンド

『コーデリアの名は、周辺諸国にも知れ渡っているのか?』

「それなりには」


 この大陸周辺は、一通り回ったという。コーデリアのことを知っている人がいても、おかしくない。



『人格を変わってくれ、考えがある』

 コーデリアに、身体の主導権を借りる。

 ちょうどいい。偽名を使う。


『オ……私は、コデロだ』

 思わず「オレ」と言いかけて、慌てて言い換えた。


『コデロ・シャインサウザンド』


 大好きな特撮のキャラから雰囲気だけ拝借した名だが、案外しっくりくる。


「あのうベルト様、【南の光シャインサウザンド】とは、どういう意味ですの?」

 頭の中で、コーデリアが尋ねてきた。


『気にしたら負けだ。とにかく、キミは今後、コデロ・シャインサウザンドを名乗るがいい』

 リュートはそう答えて、肉体の主導権をコーデリア、改めコデロに返す。


「ミレーヌ、この近くに街はありませんか? 旅をしているのだが、数日ロクに食べていないのです」


「だったらウチにいらっしゃいな。この先にあるフーゴの街で、小さな純喫茶をしているのよ。お礼になるか分からないけど、食べていってちょうだい」


 今日も、喫茶店で扱うスパイスを求めて、この森に入ったそうだ。


「あの化物、どこから来たのかしら? この前まで、この地は平和だったのに」

「あなたは、フーゴの街から来たのですか?」

「ええ、そうよ」


 脳内会話にて、リュートはコーデリアから街の概要を聞く。


 ドランスフォードの外れにある、のどかな街らしい。強く凶暴なモンスターもろくにいない、実に平和な街だという。


『すまない、銃を、ミレーヌの持っている武装を見させてもらえないか、頼んでくれ』

 リュートは、コデロに要求した。


「その武器を、見せてもらえますか?」

「ええ、どうぞ。といっても武器じゃないけど」


 ミレーヌが、妙なことを言う。


 言葉の意味は、銃の弾丸を見て分かった。



 やはりである。弾の正体は、袋詰めのコショウだ。




「動物を追い払える程度しかできないの。この辺は、あまり強い魔物なんて出ないし」

 歩きながら、ミレーヌがこの一帯を指で差す。

 

「あまり、魔物が来ない土地なのですか?」

「そうなの。ほとんど冒険者が倒してくれるから」


 魔物を倒せるなら、相当腕が立つのだろう。

 村の娘が遠出できるほどに。


「けれど、あんな危ないバケモノは初めて見たわ」

「以前から棲息していたわけではないと?」

「ええ。もっと弱いわよ」


 となると、デヴィランの仕業か。

 この付近にアジトがあるに違いない。



「あそこよ」



 森を抜けると、小さな街が見えてきた。

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