憎しみだけの人生なんて
翌朝、森の中を突き進む。
『街では、食糧も何も手に入れられなかった。また魚でも捕るか。ん?』
少し背の高い木に、果実が実っているのを見つける。
見た目には「桃の色をした洋梨」と形容すればいいか。ヘタからしたが白く、尻に向かうほどピンク色をしている。
「これは運がいいです。ペアーチの樹を見つけられるとは」
果実の正体を、コーデリアは知っているのだろう。
ほんの少しだけジャンプして、ペアーチの実とやらをもぐ。
『うまいのか?』
異世界の食べ物なんて、初めてだ。しかし、コーデリアはなんのためらいもなく、実を手にした。きっとおいしいのだろう。
「召し上がってみてください」
催促されたので、実をかじってみる。
『水っぽいな』
色艶どおり、桃だ。
砕けたスポーツドリンクのゼリーを再度固形に固めたような食感である。
自分のよく知っている桃に比べて、味が薄い。
いい言い方をすると、清涼感はあるが。
『少し元気になった気がする。でも、食べた気がしないな。おやつ程度だ』
「胃ではなく、体力と魔力に成分が行き渡っているからです。食べておいてください」
空腹を満たすためではなく、体力と魔力を直接回復させるのだという。これでは点滴だ。
とはいえ、不思議と活力がみなぎってきた。
戦いで負った傷が癒え、不足していた魔力も復活しつつある。フルパワーとまではいかないが。
「この果実があるということは、冒険者ギルドのある街が近いです。実がなっているルートを進みましょう」
冒険者たちは、ペアーチの実を体力回復剤代わりに持っていくことが多いという。
なぜか、コーデリアは種を地面へ吐き捨てていく。
『行儀が悪いな』
「種は地面に直接捨てていくんです。次も実ってもらわないと、冒険者たちが困るので」
なるほど、よくできている世界だ。
結構な量を食べたが、腹は満たされなかった。
「お願いです。ベルト様。私に復讐できるだけの力を貸してください。これからも、私は復讐に生きます。ドランスフォードを血に染めた報いを、あの者たちに」
コーデリアの怨念は深い。
それ故に、譲れなかった。
リュートはしばらく考えた後、こう答える。
『断る、と言いたいかな』
「なぜです!」
『ヒーローの力は、私怨のために使うべきではないからだ』
確かに、個人的な憎しみを背負ってた戦うヒーローはいる。
しかし、そうやってマイナスの感情に溺れた者は等しく自滅していった。
あるいは、自分が憎むべき悪と同じ存在になる定めである。
このまま放っておけば、コーデリアもいつかは彼らと同じ運命を辿るに違いなかった。
『オレはキミに、復讐だけのために生きていって欲しくはない』
「あなたは、『復讐からは何も生まれない』という、古いお考えをお持ちなのですか?」
『いや。復讐だって、立派な生きる動機だ』
そんな考えは、今や現代日本でも駆逐されつつある。
「それなら協力して下さっても!」
『復讐だけが人生であって欲しくない、と言っているんだ!』
コーデリアの言い分は理解できた。が、肯定はできない。
リュートは、自分の身に起きた過去を語る。
『転生する前のオレは、幼少時から病気だった。三〇歳で死ぬまで、ずっとベッドの上だけがオレの世界だった』
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