ベルト様

 コーデリアは、体力こそ残り少ない。が、怒るくらいにはダメージが回復していた。


 走るくらいならできるだろう。


「左目が赤くなっています」


 右目は碧眼だが、焼けた左目は赤い色に。


『いわゆるオッドアイというヤツだな』


 リュートが語ると、赤い瞳が点滅する。



 注目すべきは、ヘソの下だ。ベルトがなくなっている。代わりに、楕円形の刺青が、腹部に掘られていた。



「これは、淫紋でしょうか?」


『いやいや人聞きの悪いことを言うな』


 ヘソを撫でながら、コーデリアはリュートとやりとりをする。


『変身時でないと、ベルトは腹の中に収まる仕様らしいな。腹に違和感はないか?』


「特に何も。お腹が空いたくらいで」


 あれだけ暴れたのだ。腹も減るだろう。


「何か爆発が起きたぞ!」

 敵の兵士が、こちらに近づいてきた。


 簡単に着替えを済ませ、コーデリアは窓から飛ぶ。

 硬い地面に足から落下しても、骨折しない。

 肉体も、強化されているようだった。


 闇に紛れながら、夜の城下町へ向けて駆け抜ける。



 近くの森林公園に、身を潜める。

 どうやら、追っ手を逃れたようだ。



「ちゃんとお名前を聞いていませんでした。あなたの名前は?」 



『おおオレか? オリベリュート』 



「ん? オレ、ベルト?」

 コーデリアが、首をかしげた。




『だから、オリベリュートだ』





「オレベルト……では、あなたのお名前は『ベルト様』ですね」



『わざと言っていないか?』


 着替えを直視したことを、根に持っているのかも知れない。


 訂正する気はないようだ。どうせベルトの肉体である。「ベルト」と呼ばれても仕方ないか。



「私はコーデリア。ドランスフォード家の第二王女です。いいえ、でした」



 ドランスフォード家は代々、魔法を操ることに長けた家柄だという。

 長女は魔術学園に通い、次女であるコーデリアは、姫騎士として魔物討伐に精を出していたらしい。


「ところが、世界征服をうたう秘密結社『デヴィラン』に目を付けられ、あのように滅ぼされました」


 世界を裏から操ろうとしている集団で、要人の暗殺や殺人兵器の開発などを行っているという。


『いわゆる魔族とか言う存在か?』

 ファンタジー世界にありがちな設定だが。


 コーデリアは首を振った。


「詳しいことは、分かりません。とにかく、そんなヤツらに両親・兄姉が、私の目の前で」


 名残惜しそうに、コーデリアは焼け落ちる城を見つめている。


『城の奪還を考えているようだな。が、今は耐えるんだ』


 灰となった王都に背を向けて、コーデリアは城下町へ向かう。


 街も荒れているだろうが、当面の装備・食糧も揃えなくては。

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