二人で一人の復讐者《ヒーロー》

「爆発した?」


 怪人の燃えかすを見下ろしながら、コーデリアはつぶやいた。


『コウガは、敵の魂さえ焼き尽くす。また、相手の肉体をゾンビ化することも防ぐらしい』


 説明をしながらも、リュートは動揺を隠せない。


 人を殺してしまった。


 ここに来る前にモンスターと戦ったが、あれは自爆に近い。


 今回は、自分の意思で相手に手を下したのだ。

 

 いくら悪党といえど、こんなに後味の悪いものだったとは。


「悪人に人権はない」とは、言葉ではいくらでもいえる。


 それでも、他人の命を断つとは、ここまで苦しいのか。


 古い特撮番組のヒーローも、怪人の第一号を殺したときに戸惑いを見せていた。


 ヒーローだって、こういう気持ちだったかも知れない。


 一方で、コーデリアの方は平然としている。


 それは、城を襲われ家族を殺された怒りからだと思っていた。


 しかし、違う。


 コーデリアの構えは、武術で言う「残心」というものだ。


 まだ、相手が起き上がってくるかも知れない。相手が爆発して粉々になったにも関わらず、コーデリアは油断をしていなかった。


 彼女にとって、人を殺すことは日常なのだ。


 こうやってコーデリアは、多くの悪を殺めてきたのだろう。


 徐々に、コウガの変身が解けていく。


『いかん。まずは炎を沈下せねば』


 変身が解ける寸前で、コウガは手を炎へとかざした。


 コウガの特殊能力の中に、「冷凍ガス」という力がある。


『冷凍ガス発射!』

 

 手の先から、手から冷たいガスが発生した。


 何もない空間から、取扱説明書が勝手に開く。


『炎の魔法と氷の魔法を合わせて、ガスを放出する仕組みか』


 説明の項目にはそう書かれていた。



 ガスを放った周辺から、炎がみるみる消えていく。


「これでよし。ん?」

 ノドの調子が、戻っている。コウガから変身解除されたことによって、肉体の主導権が、コーデリアに戻ったらしい。


 衣装ダンスの隣にある姿見に、姿をさらす。


 裸の少女が、全身に映っていた。

 金色だった頭髪は焼け焦げ、短い茶色の髪に変わっている。顔や身体のヤケドは、すっかり元通りに修復されていた。


「初めて、殿方に裸を見られましたわ」

 恥ずかしげに、コーデリアは身体を手で隠す。

 それでも、少女にしては豊満なバストは隠しきれない。


『気にするな。オレにもう身体はない。変な気分にはならないさ』

「私が気にするんです!」

 ムッとしながら、コーデリアはタンスを漁る。


『おい女神、どういうことだ? どこにも、身体に異常がないぞ』

 リュートは、虚空に向けて問いかけてみた。


 あれだけ重傷だったのに、ほぼ全回復しているではないか。これも奇跡というのか?



――せっかくだから、特典を設けました。コーデリア王女のヤケドも治してあげましたよー。あなた方に死なれると、こちらも困るので。けど、あなたの遺伝子もちょっと混ざったので、もはや別人ですけど――



 オッドアイも、眼球を修復するついでに、リュートにもコーデリアと同じ視覚を与えたかららしい。


 どうやら、女神の方にもこの世界にリュートを召喚したかった事情があるらしい。


 コーデリアが見ている世界を、リュートも同じ目線で見る事が可能になっている。

 けれども、記憶の共有はできていないようだ。


――ただし、あなたとコーデリアさんは一心同体でーす。どちらが一方が死ぬと、両方とも死にまーす。なので、ご用心をー。私からのサポートはこれっきりでーす。あとはご自身で謎を解き明かして下さいねー。さよなら~ぁ――


 女神の声が、聞き取れなくなった。


「今の方は? 誰と、お話ししていたのです?」

『オレをこの世界に呼び出した女だ』


 心の中で、コーデリアと会話する。


『女神だとか名乗っていたが』

「その方が、あなたをここへ召還したのですね。ならば、感謝せねば」


『でもいいのか、オレが死んだら、あんたも死ぬと言っていた』


「構いません。復讐の機会を得られたのですから」


 物騒な言葉を聞き、リュートは不安な気分になった。

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