嘘ばかりついてる色弱デザイナーはもう亡くなりました。

もりさん

第1話 

下手くそな絵。

センスのないレイアウト。

美術系の大学に行けなかった悔しさ。

そして、赤緑色盲という肉体的ハンデ。

僕は、人の見ている色がわからない。

青を使おうとして、ド紫を塗る。

ピンクを使おうとしてグレーにしてしまう。

デザイン事務所で、舌打ちされながら10年下働き。

バブル全盛、皆が浮かれていた時代。

一流印刷会社の社内にある下請けのデザイン事務所。

高い給料を惜しげも無く遊興費に投じる同年代の奴ら。

美人ばかりの女子社員。

そんな中で、襟元の伸びきったTシャツを着た色弱の私の仕事は、デザイン作業とは無縁な資料探しやトレース作業と使いっ走り。

いつも睡眠時間がなく、写植という文字の屑に埋もれて、四六時中不機嫌で体調は最悪。

僕は、人の見ている色がわからない。

けど、携わることのできないデザインという仕事に恋い焦がれた。


カラフルな虹色のリンゴのエンブレム。

ベージュのプラスチックにスリットのラインが走るフロッグデザインの筐体。

IIcxという機種。

私を救ってくれたMacintoshとの出会い。


初めて作ったイラストは、観覧車。

太陽のように放射線に広げた多数の腕が吊られた籠を支えている。

空中を飛ぶカラフルな巨大な魚。

どこからも必要とされていないイラストを、足りない睡眠時間、充血した目で夢中で作った。

色の正体を掴んだ!と、狂喜乱舞した。

色はCMYKの色の集まりで、色弱の私が、それを数値として認識した瞬間。


この色は何だ?とPhotoshopのスポイトツールで、写真をクリックしまくった。

人の肌色は、薄いオレンジだと知った。

皆が言っていた金赤は、MとYのゲージを右側にいっぱいにひっぱってできる色。

あのチラシに使われている紺色はCを100%、Mを80%!

悩まされた紫は、Mが強い青。

普通の人が見える景色を数値で把握できた喜びで、今まで生きながらえてきた。

そして、この体の一部のような機械に助けられながら今も生き延びていられる。

グラフィックデザイナーとして。

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嘘ばかりついてる色弱デザイナーはもう亡くなりました。 もりさん @shinji_mori

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