保健室
「ねぇねぇ渡部先生、なんか転校生、先生の娘さんらしいじゃないですかー」
人懐っこく話しかけてくるのは5年2組の担任来栖 康介だ。体育が専門で細身の小柄な体には筋肉を纏っている。歳は俺より下ではあるもののすでに3年目と教師としては俺の先輩だ。複雑とはいえ歳の近いやつなんてこいつぐらいしかいないから仲良くさせてもらってる
「あ、ああまあな。うちの娘可愛いだろ」
ちょっと強がってみたものの「娘」なんて言葉、急すぎて慣れたもんじゃない。何となく袴田先生の視線を感じる気がするがこれはスルーだスルー
「凄かったですよねー。うちのクラスまで歓声聞こえてましたもん」
お互いに準備しながら軽口を交わす
「ところで渡部先生は教師になる前何してらっしゃったんですか?」
「ああーそうだなー」
俺は27歳。普通に大学を出て教師になったならば4年ほどの空白の期間が存在する
俺はこの空白の4年間の記憶をたどってみる。高いところに登っている記憶、やたらとうるさい仕事場の記憶が鮮明に思い出される
「土木工事やってたなー」
「え!?意外ですねー全然そういう感じじゃないのにー」
まあそれもそうだろう俺は175cm65kgという、ごく一般的な体型をしている。袴田先生が言うならまだしも想像もつかないだろうな
俺たちふたりはその後の5年1組担任の袴田先生と共に5年の担当教師3人でそれぞれの教室へと向かった
うーん、むさ苦しい
◆
…キーンコーンカーンコーン…
「みんなじゃあ忘れ物ないようになー」
「はーーい」
今日も終業のチャイムが鳴ってくれた。ようやく一段落だ
「おっしゃ、サッカーしようぜ!」
「じゃ、後でいつもの公園集合な!!」
「望むところだぜ!」
まったく、元気なこった
「渚ちゃん今日私の家来ない?」
「楽しそう!!でもごめんね、今日は別の約束があって〜」
「そうなんだ!じゃまた今度ね〜」
「うん!」
渚にも声がかかったようだが断っている。用事ってなんだろうな。あいつの事だから何かしら考えてはいるんだろうが
結局俺は朝ちょっと話して以来渚とはろくに会話していない。やっぱり話する時間なんてないじゃないか
「よっこいしょ」
なんてったって俺にはまだやることがある。俺は荷物を整理し終えると急いで教室を後にした
◆
コンコン…ガラッ
「失礼しまーす」
「あらあら、かっこいいお客さんだこと」
俺が入ったのは保健室。入ってすぐ左手の椅子から話しかけてきたのは養護教諭の葉隠 由美先生。何度か見たことはあったが話すのは初めてだ。歳は俺より幾分か上、32、3てところだろうか。胸元の大きく空いた白衣を着てこちらにじっと視線を送ってくる
「ちょっとお疲れみたいねそこのベットで休んでく…?」
G…いやHはゆうにありそうだ、なんて考えてる時にそんなこと言われたらたまったもんじゃない
「い、いえいえいえいえいえ、し、仕事がありますので」
俺は今日赴任してから初めての日直だ。放課後に学校の見回りを行うのだ
「真面目なのねぇ」
色気が…すごい
年上がどストライクの俺はフェロモンの監獄と化した保健室から動けない
「…じゃあ今日の夜空いてないかしら」
聞き間違いか、と思いながらさらに全身を硬直させる
そんな動けない俺の元へ由美先生が近づいてきて耳元で囁いてくる
「…私も1人で寂しいのよ」
「い、異常が内容なら、ぼ、僕はこれで失礼しますっっ」
どっから出たのか分からない裏返った声で何とか足を動かす。ただでさえ渚のことで袴田先生に目をつけられてるのこれ以上怪しいことやったら焼印入れられる
「つれないわねぇ」
由美先生の最後の言葉に全身が激しく脈をうってる
「し、失礼しますた」
本能を何とか理性で押し込んだ俺は監獄から脱出した
その後も見回りを続け明日の準備なんかしてると時刻は20時手前まできていた。日直は最後まで残って職員室の電気を消してから帰ることになっている。俺は誰もいないことを確認して学校をあとにした
そういえば見回りの時に体育倉庫を見てみたが特に部品が壊れてるとかはなかったな。ただやたらスペースが広かった気がするが
「まあ考えても仕方ないか」
俺は徒歩20分ほどの俺の家までとぼとぼと歩いて行った。あるいは今頃由美先生と…なんてことも考えないようにしといた
◆
「ふぃーい」
25分かけて家に着き、ため息を着きながら鍵を開ける
「ただいまぁ」
俺は誰もいない部屋に挨拶する
「おかえり!!おとーさん!!」
渚がエプロン着てた
昔の記憶がないので俺は俺のヒーローになります ふるとり @quintap
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