学校
◆
そんでもって今に至ると言うわけだ
しかしまぁ良くこんなにも切り替えられるもんだな渚も
「実は私、ワタル先生の子供なんです!!」
「…ふぁ?」
なんか渡部とか言ってた時からおかしいなとは思ってたが。当然子供がいるなんていう記憶はない
「えー先生子供いたのー!!」
「てか結婚してたのかよー!」
また子どもたちの歓声の波が押し寄せてきた
「お、おいお前何言って…」
小声で渚に話しかけると教壇の他の子供たちからは見えないところで太ももをめちゃくちゃ小突いてくる、いや痛い痛い
猫かぶりスマイルのままやってくるから怖い
わかったわかった話し合わせればいいんだろ
「あ、あはは実はそうなんだよねーじゃみんな娘をよろしくな!」
お祭り騒ぎの教室の中、何とか取り直した俺はそれっぽいことを言い渚に窓際の1番後ろの席に座るよう指示を出していた
「先生」
ちょうど窓際後ろの方で手が上がる
騒ぎをつんざく様な雷鳴にも似た鋭い声
教室はしんと静まりかえる
「どうしたー航ー?」
航と呼ばれた男子生徒は音を立てずに起立する
「父が担任を務めるクラスにその娘が転校してくるというのはいかがなものでしょうか。
一般的に考えて先生が成績などに関して贔屓目を使うことへの懸念があります」
周りの子供たちがはそんなことか、という具合に顔を見合わせている
今発言した生徒の名前は渡部 航。読み方だけで言えば俺と同性同名だ
そのこともあり最初から目をかけていたわけだが休み明けテストはオール満点、素行はよく小学生の肩書きが似合わないほど真面目な5年3組の学級委員長だ
「ふむふむ、その点なら心配いらないぞ。まずうちのクラスは他の2クラスと比べても生徒が1人少ない。数的にもうちのクラスなら転校生の受け入れがきく。仕方ない部分もあるってことだな。それに先生が贔屓目使おうとしても成績表の最終決定には袴田先生の審査を通さなくちゃならないし、第一先生は娘には厳しく接するタイプだ。卑怯なことはしないぞ」
記憶の中の教師スキルを使って明るいトーンのまま返答する。自分のことを「先生」って呼ぶとこなんかもスキルの一つだ。ただ卑怯なことをしないのは事実だ。そこだけは本能的にも間違いない
「そうですか。失礼しました」
そう言うと機械的に音を立てず着席する。
気になるとすればこういう所がたまにキズであるというか。ちょっと浮いているところがある
渚の方に視線を戻すと一瞬曇ったような顔を見せたがすぐに猫かぶりスマイルに戻り自席へと向かう
「よろしくね!航くん!」
「ああ、よろしく」
航のその返答もやはりどこか機械的であった
◆
「はい、じゃあ渚も席ついたところで今日の欠席は…」
俺は教室を見回すと真ん中の方で1つ席が空いているのが見つかる。
「今日も葵は休みか…」
その席の主 空野 葵は開始早々休みがちである
元から学校は休みがちだったようで始業式後に1度だけ和室で話をしようとしたが何も話してくれなかった
「よし、じゃあ1時間目始まるまで休み時間にしていいぞー」
俺は出席簿にチェックをつけるとそう呼びかけ教室を後にする
尻目に渚の周りに子供たちが集まるのが見えた。さすが俺の娘だ、なんて見当違いのことを思いながら次の授業の準備に職員室に向かった
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