頼み事

「頼み事っていうのは人助けよ」

「??????」

助けて欲しいのは俺のはずだが?

「もちろん無料でとは言わないわよ」

お、なんだそれあれか体で…とかいうやつか?いやごめん俺年上派なんだわっはっは

とか思ってると渚にゴミを見る目で見られた

ごめんなさい鼻血抑えてる分際で調子乗ってごめんなさい

ってかそんなわかりやすいのか…俺?

「そうね、助けてくれたらおじさんが今どんな状況にいるのか教えてあげるわ」

「まじか!!」

それは正直今1番嬉しい

でもそれ別に親切心で教えても良くないか?

「今言っても分からないだろうしね…」

曇った表情で呟くように言った渚の言葉の意味も俺にはよく分からなかった。




「ところでおじさん、あなた記憶が曖昧なんじゃない?」

「…そうだな」

そうなのだ。俺は記憶が曖昧どころか全く残っていない。それも昨日、一昨日の話ではない。その前の日もそのまた前の日も…どうやら俺には今日朝起きた時からの記憶しか残されていない。

「俺が明確に覚えてるのは渡部ワタルっていう自分の名前と自分の家の状態ぐらいだな…」

そこまで話してすっかり冷めてしまったお茶をすする。

渚は何やら真剣な面持ちで斜め下を向いている

「…やっぱり、ね」

渚は真剣な表情のままでまた何か呟いているようだ

しかし俺としても何故記憶を失ったにも関わらずこんなに取り乱さずいられるのか不思議なところだ。まるで今までもそれが当然であったかのような感覚なのだ。




「で、人助けって誰を助けりゃいいんだ?」

何となく血が騒ぐ。今度は自分以外の誰かが憑依しているような…そんな感覚だ。

「ああ、そうだったわね」

渚は我に返ったように話し出す

「あなた…いやワタルに助けて欲しいのは小学生よ」

「へ?」

お茶を吹き出すとこだった。危ない危ない

なぜ急にワタルと呼び方を変えたのかは謎だが助ける相手は小学生?渚が言う人助けだから友達の女子高生を義父の魔の手から救って欲しいとかだと勝手に思ってたけど…ってこれは俺が酷いな。どんな生活してたらその思考になるんだ

「小学生を助けろって俺は何すりゃいいんだ?」

「そうね…それは行けば分かるわ」

「行けばってどこ……っっつ!!」

クラっときた

いやこれは見惚れたとかそういう類じゃない

目に入ったのは空の湯のみ茶碗

「お、お前……なんか入れやがったのか?」

俺は意識を失いそうになりながらも声を絞り出す

「詳細は記憶に送り込んどいたから。それから身だしなみはきちんとしておくこと。あたしも行くけどしっかり頼むわね」

記憶??身だしなみ?曖昧になる意識の中で何とか聞こえた言葉もよく理解できない

「う、ああぅ」

そこで俺の意識は途切れた



次に目が覚めた時俺は教師になっていた

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