砂海のロック

 さア、うだるように熱い夏の夜がやってきた。

 蝉時雨すら眠る丑三つ時。

 コンクリートジャングルも枯れ果てて、

 アスファルトは砂糖菓子のようにほろほろと崩れる。


 月の海みたいな街は無重力だ。

 酸素が薄いから呼吸すら億劫だけれど、 

 足を止めれば、蟻地獄に飲み込まれる。

 だから疑いも涙も後にして、

 身をよじりながら歩き出してみようか。


 ほんの少しだけ涼しい夏夜は、恨み言がよく映える。

 鼻歌交じりに世の中でも呪ってみようか。

 同じ旋律に乗せて、愛の睦言でもうそぶいてみよう。


 ああこの世界は何処まで行っても臆病な駐車場ばかりだ。

 そんなに縮こまって、泣かなくたっていいじゃないか。

 あいにく慰めるための宝石は持ってないが、

 息をつまらせている君に、せめて僕の言葉を貸したげよう。

 

 この誰かの歴史でできた砂の海。

 星砂の間から揮発する、

 夜の旋律が銀河に帰っているよ。


 太陽を齧り取るような歌声で、

 退屈そうな星月夜を宇宙へと飛ばそうか。


 夢物語のリズムに乗せて、

 一呼吸ぶんのロックンロールを聴かせておくれ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る