駐車場とジャズピアノ

 牢屋みたいな土曜日の部屋は透明で、

 流れもしないで止まってる。

 ブラックコーヒーの夢には疲れたから、

 夜更しの街で、月の兎でも探すことにした。


 他人事の月は中途半端に欠けている。

 涼やかな星々は退屈そうに、

 地上を満たす駐車場の時間を止めている。

 ああこの地上には、凍った豊穣が満ち満ちて。


 停滞した世界を泳がなければいけないのに、

 この身体に背びれ尾びれがついていないふしぎ。

 ほんの少しだけの酸素があればいいんだ。

 乾かぬうちに

 太陽をひとかじりして、深海の街に潜る。


 海底に指先が触れても、

 この身体を運ぶ水流なんて生まれやしない。

 失った誰かの歴史が降り積もる水底に、

 はらはらと落ち行く一粒の砂となる。


 言葉だけでは伝えきれないから、

 夜に溺れて、旋律を探してる。

  

 揮発する夜が生み出す原音に、

 震える道路標識が歌ってる。

 眠りについた街路樹がざわめけば、

 色褪せたポスターがひらひらと笑う。


 数え切れぬ旋律は星月のピアノも巻き込んで、

 夜は銀河へとつながるセッションとなる。



 開ききった両腕を通して

 僕の中にいる幽霊に 純粋な夜が染み渡る

 

 そして枯れ果てた空に

 ずぶ濡れた野良犬のような まっさらな笑みが浮かんだ


 そうして夜はうたとなり

 僕は地に降る星砂の

 夜しか見えない 歴史となる

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