a.m.4:00

 星空を眺める夜更しの日、あと数時間で世界が終わることを知る。

 心が風船のように浮いて、暗闇に慣れた耳を澄ませる。


 孤独をこじらせた高級車が走っている。

 遠くで知らない街灯がチカチカと瞬いている。

 枯れ木のような電柱の下で、秋の蝉が鳴いている。

 誰かが見ている夢を咥えた猫が、夜色の尻尾を振っている。

 時計の針のように、振っている。

 それが繰り返されるたびに、心から言葉が剥がれる。

 体中の血が砂になる。

 目が乾いている。

 歩みが止まる。


 なのにまだ、世界は終わらない。

 

 花の散り際に値をつける世界は、

 綺羅星の滴り落ちる銀河と繋がっている。


 明日は曇りだろうから、たぶん星は見えないだろう。

 だからさっさと世界が終われと、

 小石を蹴るふりをして眠りから逃げ歩く。


 無くした覚えの無い忘れ物を探している。

 このまま空の終わりまで、下を向きながら歩いてみようか。

 通りすがり、忘れ去られた車の窓に、誰かのシルエットが映りこむ。

 知っている。

 失ったことのないものは、過去を探しても見つからない。

 明日はきっと、雨が降る。


 

 退屈な夜に溺れて、笑えるくらいに何もない。

 寝静まった秋の街は、夜明けの訪れを優しく拒んでいる。

 言葉の幽霊が自販機の灯りに集まって、淡い光に乗って空へと帰る。


 かなしい。

 だるい。

 ああ、いきたくないなあ。


 (売り切れ)の赤い文字が眩しい。

 誰もいないのに、信号機が無駄な点滅を繰り返している。


 世界が終わるまで、多分あと2時間。

 

 眠れないから「おやすみ」の代わりに

 空き缶を投げ捨てる 振りをした 

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