月の亡霊

 季節の亡霊に追われているから、涙を零す暇も無いよ。

 から笑いを浮かべる瞳を、星や花火はすり抜ける。

 せめて忘れないでと、飴細工のような心は泣きわめくけれども。


 未来に意味を見出だせないから、過去しか無い。

 過去が無ければ、空っぽなのに。


 夜に浮かぶ無数のシルエットが、どうしようもなく胸を刺す。

 月には兎がいるのかと、訊いても答える人はいない。

 だからそう、空を巡る銀河のメリー・ゴー・ラウンドへ。

 消えそうな雲になって、手を伸ばす。

 くるくるまわる螺旋の中央。

 透明になって、空の終わりへと。






 空行く月は、砕けてしまった夢の破片から生まれたんだ。

 そう言った彼は、月の海の波に乗り何処かへ行った。

 足で砂をかき混ぜて、自分の幽霊を探してる。

 どれだけ探しても見つからないから、きっと彼が連れて行った。

 引いては寄せる、白波の泡に乗せて。



 (わすれるなよ)



 誰かの声で目を覚まして、窓越しに夜空を見る。

 行ってしまった誰かに思いを馳せて、やけに冷えた涙を零す。

 変わらないものなどないから、過去は死んだ亡霊になるんだ。

 たぶんもう、逢うことは無いのだろう。


 見上げた空を泳ぐ月は自由で

 苦しくなって カーテンを閉めた

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る