揮発する夜

 時折、夜が銀河に還る時がある。


 月が欠けていて、

 星がまばらで、

 いやに空気が澄んでいる午前2時。


 そんな時、夜は揮発して旋律となる。


 夜更しの街から見上げると、原音の夜がよく見える。

 そのか細い響きはオゾン層の円環を巡り、

 やがて月の海を泳ぐ鯨の唄となって、

 宇宙へと溶けていく。


 夜が優しすぎる日は、眠れないから外に出る。

 そして微細な粒子となった夜を、胸いっぱいに吸い込む。

 凍った暗闇の匂いが、幽霊のような肉体に染み渡る。

 銀河へと向かう夜を取り込むたび、

 身体の輪郭が、点滅する街灯へと溶け込むふしぎ。

 ああこの時間は、喧騒の寂しさから最も遠い。


 道に迷ったから、夜更しをしている。

 忘れ去られた自販機がゴウンゴウンと泣いている。

 標識と視線が絡まり、夜空に向かって目をそらす。



 そうしたら、そこにある。

 伸ばした指先には、触れている。



 夜が螺旋を描いて 欠けた月に舞い踊る

 旋律で作る望遠鏡で銀河を覗く

 空気力学の身体から

 銀河を漂う幽霊がスルリと抜けて


 空へ 空へ 空へ


 空の終わりへ

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