夜の向日葵

 とおい、とおい昔に忘れてしまった群青の詩。



 描いては消して、引いては寄せる空の波。

 空に溺れて46億年。

 歴史の色は、煮詰められた夏の青。


 

 夢の中。

 空から無数のラムネ瓶が落ちてくる。

 パリン、パリンと砕けて。

 どこを見渡しても、リサイクルされた硝子の海。

 季節は降り積もる破片で出来ている。

 

 そんなことは、生まれる前から知っているけれど。


 空に映る自分に、笑いながら中指を立てる。

 

 そんなことは、生まれる前から知っているのだ。

 

 一人立って、プールへと飛び込む。

 見ず知らずの探しものが無くならないから、

 心は蜉蝣のように蒼緑の空を舞う。



 夏の弱さを愛しているから、何もかもは投げ出せない。

 砕け散った歴史の中から、ただ一つの破片を探している。

 日差しの下では眩しすぎるから、月明かりをたよりに。

 ただ一つ欲しいのは、壊れることの無い廃硝子のハート。



 昼寝の微睡みから覚める。

 其処にあったのは、汗の匂いと昼寝の気だるさだけ。

 薄ら笑いを浮かべて、涙を流す。

 脳裏に浮かぶのは、言葉と時間から逃げ出すことばかり。




 ポッキリ折れている心を、無理やり繋げて起き上がる。

 やるべきことは残っている。

 逃げ切れずにいる理由が、一つだけある。

 

 終わりのない青空は、砕けた青硝子で出来ている。


 腹が立つほど明るいその空へ。

 忘れ去られた何かの積み重なったその空へ。

 夜の向日葵のように、中指を立てる振りをしよう。

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