土曜日は雨が降る

 土曜日はいつも雨が降る。


 誰かの吐き出した一週間ぶんの旋律が、夜の底でぐるぐると巡る。

 冷めたコーヒーの水底に溜まった砂糖みたいな原音が、

 くるりくるりと一人ぼっちの月に向かって、

 金曜日の夜に、遺伝子みたいに揮発する。


 それは項垂れた道路標識を飛び越えて、

 モノクロームのポスターを色づけながら、

 ガラス玉の瞳に映る星座に線を描く。


 やがて旋律は銀河の円環を描き、

 世界中の夢で流れた涙を掬い取って広がるオーロラのよう。


 そして次の日には、

 誰かの優しさが齧りとった太陽を、

 とろとろとした雨が、そっと抱きしめて癒そうとする。


 だから土曜日の雨は、夕凪のように切ない。

 窓の外を覗いてみれば、

 ぽたぽたと落ちる、溜め込んだ感情みたいな雫が光ってる。

 ずっとむかしに置いてきた、わすれものみたいに濡れた匂い。

 星座から見た空の色。

 そんな遥か昔から続く原音が、

 グラスハープのように胸の底で響くふしぎ。

 

 それは愛や友情や永遠も抱えていなくて、

 言葉の格子すらも、するりと通り抜けてしまう。


 カフェオレをスプーンでかき混ぜる。

 誰もいないプールで水飛沫が踊る。

 ふと、窓越しに空を見上げる。


 そんなまだ誰も値札をつけていないことに、

 ほんの少しだけ、意味が生まれる。


 土曜日にはいつも、そんな雨が降る。

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