第2話 プロローグ(著者:滝沢慧)

「バイト……ですか?」

「ああ。片瀬かたせさんは『シスタジア文庫』というライトノベルレーベルを知っているかな」

「あ! それ知ってます! お兄ちゃんが好きなヤツ!」


 放課後。主任さんから『頼みたいことがある』って言われてお店に行ったら、待ってた主任さんから、なんか履歴書? みたいなのを渡される。


「あそこからは『SGO』のノベライズも出させてもらっていてな。その縁で、編集長の永見さんから『優秀な妹スタッフを探している』と話があったんだ。心当たりがあれば紹介してほしいと」

「『妹スタッフ』……?」

「まあ早い話が、より魅力的な妹ヒロインを生み出すため、実際に『お兄ちゃん』のいる妹達に取材したいということさ。うちの『レンタルお兄ちゃん』と似たようなものだな」

「え……で、でも、いいんですか? アタシ、お兄ちゃんのホントの妹ってわけじゃないのに……」

「その点は心配ない。片瀬さんはどこに出しても恥ずかしくない完璧な『妹ヒロイン』だとも。私が保証しよう。きっと真島くんも同じことを言ってくれるに違いない。『俺の初葉はつはは最高だ! 初葉ビッグ・ラブ!』とかなんとか」

「え! そ、そうですか……? えへへ……そうかなぁ」

「……というわけで、引き受けてくれるだろうか?」

「はい!! 任せてください!! お兄ちゃんの妹として、バッチリお手伝いしてきます!」


 うんうん。考えてみたら、主任さんにはいつもお兄ちゃんのことでお世話になってるし。これもオンガエシだよね!

 よーし! 頑張るぞー!


◆◆◆


「――とは言ったけど、フクヘンシューチョーなんて聞いてないよぉぉぉ!!」


 『シスタジア文庫』の編集部。用意された『副編集長』のイスに座って、アタシは頭を抱える。

 それだけでもオーゴトなのに、『レーベルを盛り上げるために、妹としてレポートを書いてほしい』なんて言われちゃって……。


 編集長のずっちー――“涼花”だから、ずっちー――は、『皆さんのお兄さんに協力をお願いしても構いません』って言ってたけど……協力って、具体的にどんなことお願いしたらいいんだろ? な、なんでもいいのかな?


「……………………えへ」


 ――ハッ!? ア、アタシってば、なに考えてんの……!? い、いくらレポートのためでも、そんなことまで、ダメだってば!


 うぅ……顔が熱い……。お水もらってこよ……。


 ――……あれ? ずっちーだ。部屋でレポート書いてるって言ってたけど、休憩かな?


「ずっち――」


 って、いけないいけない! ちゃんと編集長って呼ばないと、ずっちー真面目だからまた怒られちゃう。


「す、涼花すずか編集長!」

「初葉さん? 偶然ですね。休憩ですか?」

「はーい、ちょっとお水もらいに。涼花編集長もですか?」

「ええ、ちょっと気分転換に――……そういえば初葉さんの方は、レポートの進捗はどうなっていますか?」

「あ、それなんですけど、ちょっと苦戦してるっていうか、上手くまとまらない感じなんですよね……。一応アタシ、お兄ちゃんに協力してもらって一緒に取材しようとしたんですけど、つい、ひ、ヒートアップしちゃって!? レポートどころじゃなくなっちゃったというか!?」

 アタシは顔を真っ赤にしてしばらくあたふたした後、

「と、とにかくそんな感じで、あんまり上手くいってない感じです! 編集長の方はどんな感じですか? ……なんか部屋の中から印刷の音してますけど、もしかしてもう完成してたり!?」

「はぅ!? ま、待ってください! 中を覗いてはだめです! こ、この音は……そう! 資料を印刷しているところで! レポートのほうはまだ!」

「……ってことは、涼花編集長も、割と苦戦してたりしてます?」

「ま、まあ、そんなところです……。編集長として、生半可なレポートを提出するわけにはいきませんから」


 コホン、と、真面目な顔で咳払いするずっちー。


 わー、やっぱりずっちーはすごいなぁー。同い年だけど、敏腕ヘンシューチョーって呼ばれてるだけある。……でも、さっきっからプリンターの音全然止まんないけど、そんなにたくさん資料集めてるのかな?


 ……うん。ずっちーがこんなに頑張ってるんだもん。アタシも悩んでばっかいられないよね!


 『兄妹における最高の関係』、ばっちり答え出して、レポート完成させなきゃ!

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