どうしてこうも、的中するようなことになるの!

 食事を作って振舞って、二人のお話を聞いて談笑したら。

 既に午後になっていて。

 と、二人は何か思い立ってか、パトロールに向かうと言う。

 「!」

 私は、そうかと理解を示して。

 もしかしたら、今日は定期的に見回っている日だったのかも、と。

 時折、二人はそうして出掛けているから。

 まあ、そのついでに、食材集めもしてくれるし、私としては助かるのだけど。

 しばらく帰ってくるまで、一人。寂しさもあるけれど、ね。

 私は、思いつつ、それならと二人を見送った。

 また一人となって、研究室に籠って。

 SSDの安全性を向上する方法を模索する。

 SSDに関することだけじゃなく。

 色々なセルリアンや、サンドスターに関係する論文を呼び出して。

 じっと読み進めて、思考して。

 時間を過ごしていく。


 「……?」

 時計を見て、既に夕刻になったところで。

 私はコンピューターの画面から顔を上げて、不思議そうに首を傾げた。

 いつもの二人にしては、遅いなと思う。

 寄り道をしないことはないから、気にすることはないけれど。

 「……。」

 ちらりと、SSDを見るなら、嫌な胸騒ぎだってする。

 これがもたらした、悪夢が現実になりそうで。

 でも、それは単なる懸念だと、私は頭を振り払った。

 「かばん!!」

 「まずいことになりました!」

 「?!」 

 ……そうして、嫌な予感を払拭したと思ったのに。

 上から響く、二人の声に嫌な予感が蘇ってしまうの。

 やがて、バタバタと、らしくないほど慌ただしく、通路に足音が響くなら。

 同じように慌ただしく扉を開いて、その姿を見せる。

 その姿、その顔、本当に、まずいことがあったとばかりに、青冷めていて。

 「……どう……したの?」

 その様子に、私は震えながら声を掛けた。

 「セルリアンです。」

 「!」

 コノハ博士が言うことには、セルリアンだと。

 「……。」

 だが、それだけでは、その慌てようではない。

 それほど大きくないタイプなら、二人どころか。

 そこを散歩しているだけのフレンズでも対処できる。

 そうじゃないということは。

 「……!」

 察して、ごくりと唾を飲み込むと。

 「超巨大のセルリアンです。あの、海中にいて手を出せなかった……。」

 それを、ミミちゃん助手が補完する。

 顔には出していないが、慌てている様子がうっすらと見えている。

 そう、その超巨大セルリアンなら。

 水中ホテルを破壊して、大量のフレンズ型セルリアンを生み出した、あの。

 それならば、慌てるのも頷けよう。

 知るなら、私は余計に緊張に、冷や汗が流れた。

 「とにかく行って、何とかしないと。」

 なら、自分たちも何とかしないと、と思い。 

 自分でも、何かできるか、思考を巡らせて。

 「かばん、待つのです!」

 「!」

 そんな時、コノハ博士が待ったを掛ける。

 こんなまずい時に待ったとは、止められて私は焦りも露にしそうになる。

 「そのままで行っても、何ともできないですよ。」

 「使うのです、それを。」 

 「!!……でも……!」 

 それは、このまま行っても、何もできないとするなら。

 SSDを使おうとさえ、促してくる。

 そう、私には、翼も牙も爪もない。

 そんな私が、できうる手段とするなら、昨日手に入れたSSDだけで。

 なら、使うしかないとも、言われて。 

 でも、と私は逆に、待ったを掛ける。 

 脳裏に、今朝の悪夢まであって。

 迂闊に使って、全てを破壊したくない。そのために、待ったを掛けた。

 昨日の、あれだけのセルリアンを倒すのに、室内の濃度が減るほどだ。

 いわんや、巨大セルリアン相手には、……どうなる? 

 「!……かばん、安心してください。」

 「すぐにそのカプセルに封入すれば、大丈夫だと思うのです。そうすれば、自然と戻ると思うのです。」

 「!!コノハ博士、ミミちゃん助手!……うん。そうだね。」

 私の、〝でも〟のその先は、悟られて。

 二人が言うには、使った後、素早くカプセルに戻せばいいとのこと。

 昨日の実験でも、使用後カプセルに戻したら。

 確かにサンドスター濃度が回復したことから、実に根拠のあることだ。

 そう言われるならと、私は遂に頷いて。

 鞄に、SSDを封じているカプセルを入れて、背負った。

 

 言われるがまま、二人の案内の元、バスを走らせたなら。

 「……っ!」

 まず目に付いたのが、さよならの夕焼けと同じ、夕焼け空で。

 かつ、皮肉にも、同じ砂浜。 

 賑わいもある意味同じかな、それは私に鬱屈な思いを起こさせて来る。

 でも、様子だけは違う。

 砂浜に、打ち上げられる形で、例の超巨大セルリアンがいて。

 もちろん、誰かに倒されたとかじゃない。

 こちらを、フレンズを食べにきたのだ。

 恐ろしいことに、船の形をしているにもかかわらず。

 相手は途端、手足を伸ばして立ち上がり。

 おまけに、ドロドロとした黒い液体を垂れ流して。

 次々とセルリアンを生み出していく。

 その様子に、セルリアンハンターをやっているフレンズも。

 冷や汗を流している模様。

 「!!……。」

 見れば、圧倒的に不利だと分かり。

 そも、相手するには、あまりにも戦力が不足している。

 ……いいや、手はあるだろう。SSDなら。でも……。躊躇いはあった。

 バスを降りて、皆の所へ向かう先に。 

 「!」

 ……またしても皮肉があって。

 そう、キュルルちゃんたちがいたの。

 もちろん、サーバルちゃんも、カラカルちゃんもいる。

 見てしまい、私は気まずくなりいたたまれない気持ちになる。 

 「!あ、かばんさん!博士!ミミちゃん助手!」

 「!!……。」

 こっちの気持ちは、お構いなしに。

 キュルルちゃんは気安く私たちを呼び、手招く。

 コノハ博士や、ミミちゃん助手は、何食わぬ顔であっても。

 私としては、気安く、また憎らしくも感じてならず。

 そんな様子と声を感じては、きつく唇を噛み締めた。

 「それよりも、博士!何か手立てって、見付かったの?!」

 「!!」

 なお、キュルルちゃんは私のことなんて、お構いなし。

 どう聞いていたか知らないけれど、コノハ博士から。

 方法を耳にしたというところね。

 それを、せがんできた。

 「……それは。」

 「……持ってはきたのです。ですが……。」

 「?持ってきているなら、早く何とかしようよぉ。これじゃ、ドルカやアシカが、やられてしまう!」

 対し、コノハ博士は、口ごもりながら。

 ミミちゃん助手は、難しそうに言い淀みながらも、告げて。

 なお、キュルルちゃんは、背景を知らないから、それなら早くとせがむ。 

 そうしないと、今も戦っているフレンズに、犠牲が出てしまうと。

 「……っ!」

 私は、そんな軽々しい態度に、苛立ちながらも。瞳に涙を溜めながらも。

 鞄に手をやって、……SSDを取り出そうとした。

 「!……。」 

 その際に。

 いっそうのこと、キュルルちゃんに使わせてやろうとも思ってしまう。

 そう、意地悪にも。

 そうすれば、私の責任は、ないかな?

 思いつつ、手にして、キュルルちゃんに見せた。

 もしかしたら、見せびらかすような気もしたかも。

 「?!なにこれなにこれー!」

 サーバルちゃんは、私がキュルルちゃんに見せた物に、興味津々として。

 また、こんな状況であっても、らしく飛び跳ねている。

 「かばんさん、これは?」 

 一方で、キュルルちゃんは、何だろうかと私に聞いてきて。

 「!……。」 

 私は、不思議がる瞳で見られて、言葉に窮して。

 「!ううん。」

 それでもと、躊躇いを振り払い、紡ぐことは。

 「……セルリアン用の破壊兵器だよ。」

 そうだとして。

 「!!!すっごーい!」

 「ほんとっ?!」

 「!!……。」

 なのに、キュルルちゃんとサーバルちゃんは、目を輝かせて私を見てきて。

 先の、キュルルちゃんへの酷い感情一転、いたたまれなくなりそう。

 それでも、手向けたまま。

 「じゃあ、あんなセルリアンだって、いちころだね!かばんさん、ありがとう!」

 「!!……。」

 なのに、私の気持ちなんて知らないキュルルちゃんは、嬉しそうに言って。

 受け取ろうとさえして。

 私は、いたたまれなさに、目を瞑ってしまう。

 その際に、頬に滴が流れて。

 「!」

 その滴が、私を正気にさせる。

 ダメだと。

 このまま、何も知らせずに、使わせるのは、危険だとして。

 手渡そうとしていた手は、異様に力強くなる。 

 「?!あの、かばんさん?僕、受け取れないんだけど……。」

 「!!……。」

 「?……かばんさん?」

 それでは受け取れない、どうしてとキュルルちゃんは言ってきて。 

 私は、だが、言葉を紡げず。

 色々な言葉が頭を巡り。

 「……ダメ……。これは……。」

 やっと、口を動かして。ダメだと。

 「?!……かばんさん、それって……。」

 「ダメなの、これは!!」

 「?!」

 そんなただならぬ様子なら、さすがのキュルルちゃんも気付くか。

 私の様子に気付いては、何でだと聞きたくあり。けれど、私は、質問以上に。

 キュルルちゃんの言葉を遮って。

 「……これは、……。」

 その先を紡ぐために、震えながら口を動かして。

 「……サンドスターデストロイヤー。」

 「……?」

 「……みゃ?」

 やっとの思いで口にして。

 だけれども、事の重大さを知らないキュルルちゃんや。

 サーバルちゃんは首を傾げるだけ。

 私は、そうであっても落胆することなく。

 真っ直ぐ顔を上げて、キュルルちゃんを見据えて。

 「……。」

 言おうとしても、言いにくさに躊躇いが邪魔をして。でも、口を動かして。

 「これは、サンドスターを無理矢理共振させて、破壊して、そのエネルギーで、セルリウムを完全破壊する物なの!!この意味、分かる?分からないでしょうね。これは、あなたが大好きだと言ったフレンズを、消滅させてしまう物なの!!!ええ、セルリアンと同時にね!!」

 その先を私は紡ぐ。 

 私が知りえた、最悪な情報。

 知りたくもなかったでしょう。でも、告げるしかない。

 脳裏に、あのさよならの夕焼けを思い出して。

 自分から、好きだと叫んだ、フレンズたちを。

 だのに、この私の手の中にある、この何かは、無慈悲にも破壊してしまう。

 私の望むと望まざるとにかかわらず。

 そのことは。

 「?!えぇ?!」

 当然、ぎょっとさせた。

 「「……。」」

 やがて、キュルルちゃんのぎょっとした表情から、場は沈黙になる。

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