悪夢の夜明けと、予感

 研究所に戻る頃には、……夕方だった。

 「……!」

 そうだとすると、ご飯をまた作らないととつい思うけれども。

 「それよりも、かばん。」

 「SSDを調べるのですよ。」

 「!……そうだね。」

 ご飯よりも、二人は好奇心が勝っていてか。

 私に要求するのは、そのSSDのことで。

 とりあえず、研究室に持って行き、軽く調べてみようとも。 

 それならとして、私は頷いて、ご飯を用意するよりも先に。

 SSDを調べようと、手に入れたカプセルを持ち、研究室まで向かう。

 無機質な研究室に、SSDの不思議な光源が辺り。

 いつもよりも、不思議さを演出してくるけれど。 

 それよりもと。

 抱えていたSSDを空いている机の上に置いた。

 「……?」

 と、そこで考える。これ、どう開くのだろうと。

 中身を取り出さなければ、調べようもないし。

 見た所、空きそうな部分はないけど、どうかなと、首を傾げた。

 「……。」 

 「わくわく。」

 「わくわく。」

 「!」

 私が観察している中、二人は見つめてきて。

 それも、どんな物か好奇心もまた、見せているよう。 

 私は、応じるためにも、ゴクリと唾を飲み込んで。

 そっと、まず触れて、立方体の直上を、切れ目をなぞるようになぞってみた。

 と。

 「!」

 プラスチックのカプセルが開くような。

 そう、ぱかっという軽い音と共に、楕円形の外側が開いた。

 「……。」

 何でだろうかと、思いつつも、開いたということは、正解だろうとして。

 手を入れると、……妙に金属みたいな冷たさの立方体が手に取れた。

 冷たさに、悲鳴を上げそうになったが、とりあえず取り出して。

 「「……。」」

 三人して、じっくり観察することになる。 

 「「……?」」

 なお、見ているだけでは。 

 やっぱりどうなのかはっきりせず、三人して首を傾げることになる。 

 出したから、……としても、何か起こるわけでもない。

 どう調べるか。

 「……かばん。」

 「!」 

 そんな折、コノハ博士が声を上げて。

 「セルリウムに近付けるのはどうでしょう?何か反応があるかもしれませんよ。」

 ミミちゃん助手が続けて。

 そう、セルリウムに近付けたなら、どうだろうかと。

 「!……まあ、だね。スイッチとか、なさそうだし。」

 私は、賛同する。

 どんな仕掛けがあるか、触っただけでは分からず。

 なら、セルリウムに近付けて、反応を見てもいいと、私は頷いた。 

 「……。」

 また、緊張に喉を鳴らして。

 私は、手にしていたSSDを、セルリウムの入った水槽に近付けた。

 「?!」

 と、水槽の中のセルリウムが、突然沸騰するように蠢き。

 何だか、怯えて逃げ出そうとしてもいるかのよう。

 「?!うっ?!」

 また、私の方でも反応があり。手に重く鋭い痛みが走り。

 つい、痛みに呻いてしまう。 

 「?!な、何なのです?!」

 「SSDが?!」

 「!」

 反応は他にもあり、二人はぎょっとして示すことには。

 私の手の中のSSDであり。

 何事と見れば、切れ目からの光が強く出て。

 合わせて、セルリウムの沸騰は増し。

 しかし、出ることができず。

 幸いとばかりに、SSDは冷たく光る。

 まさしく、そのために生まれた。

 ただひたすら、セルリアンを殺すために。

 故に、獲物を見付けて、鋭く輝き。そのために、鈴のような音色を響かせる。 

 「あぐっ!!」

 鋭い痛みは増し、手から落としそうになる。

 一方でセルリウムは、最大限に沸騰するなら。

 光に包まれて、その黒を消失させて。

 「!!」

 水槽にて、黒の粘り気ありそうなのから、ただの白、砂状の物質になっていった。

 それが、SSDの力か?

 それで、反作用は?

 《警告!サンドスター濃度低下!フレンズは速やかに退出してください!繰り返しますサンドスター濃度低下!フレンズは速やかに退出してください!》

 「?!えぇ?!ラッキーさん……。」 

 腕のラッキーさんが教えてくれた。

 話の通り、サンドスター濃度が低下したらしい。

 「!!か、かばん!!」  

 「そ、それ早く仕舞うのです!」

 「!!う、うん!!」

 呑気にしていられないや、二人が急かすように言うなら。

 そのSSDとやらを早く仕舞うようにとも。

 どうも、向こうには嫌な予感がしているらしく。

 私は頷くなら、SSDを再び元のカプセルに封入した。

 閉じると。

 《サンドスター濃度上昇。正常値になりました。》

 「「……。」」

 警報が停まる。

 耳にしては、三人ともほっと安堵した。 

 ……してから、微妙に沈黙が流れる。

 「何て危険な物ですか。」

 「人は、とんでもないもの作るのです。怖いのです。」

 「……ええと、人代表として、何だかごめんね。」

 そして、文句が放たれる。

 サンドスターを急激に減少させるような、とんでもない物を作ったと。

 その人に口々に言いやするが、何だか私が言われているようでならず。

 申し訳なさに、私が謝ってしまった。

 「かばんは悪くないのです。」

 「悪いのは、このような物を作り出した、愚かな人たちです。」

 「……そ、そう。あ、ありがとう。」

 でも、私にはフォローを入れてくれた。

 ありがたく思い、私はお礼を言う。 

 「ええい。とんでもない物のせいで、腹が立ったのです。腹が立ちに立ち、音を鳴らすばかりです。」 

 「同じく、お腹が鳴ります。」 

 「……。」

 フォローだけで終えたなら、良かったけど。

 そこは二人。

 盛大にお腹を鳴らして。私は見聞きして、呆れてしまった。

 呆れたけれど、二人らしく微笑ましい。

 「……ふぅ。まあ、これはここまでにしておくとして、そろそろ準備しようか。」

 呆れつつも私は、二人に合わせて。

 食事の準備をしようと言った。その、SSDの件は、これぐらいにして、ね。

 「わ~い、なのです。」

 「待ってました。」

 二人は、らしい返事をして、私に追従してきた。

 食事を終えて、片付けたなら。 

 また、それぞれ、自由にする。

 私は、研究室に戻って、例のSSDについての研究資料に目を通して。 

 改善できるかどうか、机に色々広げて、計算したり、予想したりして。

 そうして、夜を更けさせていく。

 

 ……どれぐらい目を通したか、分からない。

 もしかしたら、資料に穴が開くほどに、目を通したのかも。

 だけど、私に希望を抱かせる答えは、見付からない。

 思いもつかない。

 やがて疲労して、私は自室に戻るなら、そのまま眠ってしまった。

 夢見は、……悪い。

 資料がもたらした、悪い情報が、私の思考にこびりついて、悪くして。

 「……っ!……っ!!」

 それで、私が見た夢は、凄惨な光景だった。

 沢山のフレンズたちが横たわり。

 その犠牲に、セルリアンたちは、砂のように崩れて。私は、愕然と肩を落として。

 嗚咽する。

 こんなはずじゃなかったと。

 こんなことにしたくなかったと。思い、やがて跪く。

 「……許して……。ごめんなさい、皆……。」

 私は、涙声で、ひたすら紡ぐ、贖罪のために。

 確かに。

 セルリアンを倒せた。

 だけど、犠牲に沢山のフレンズが、……サンドスターを失った。

 おまけに、いつも潤沢に。 

 それこそ、そこら中にあったサンドスターの輝きまで奪って。

 フレンズのいない、孤独の世界を作り上げる。

 「……っ!」

 その中に、仮に多少の希望があるとするなら? 

 キュルルちゃんの、消失していく様子。

 その側に、サーバルちゃんはなぜか無事でいる様子。

 声を詰まらせながらも。

 キュルルちゃんの消失に、フレンズの消失と同じくらいの。

 相当な沈痛を覚える一方、片隅の片隅に。

 それこそ、端っこというほどの端に、嫌に満足する自分がいるの。

 それはいけないことだと心の多くは制してくれた。

 一方でサーバルちゃんは?と疑問が行き。

 「……っ!」

 だけどもサーバルちゃんは、私のことよりも、自分のことよりも。

 案じたのはキュルルちゃんで。

 私の心は、途端、悲壮と怒りに包まれて。

 今までの思い出とは、この程度だったの?!そう叫んでいるようで。

 その心の叫びに、私の心は大きく怒りに振りきれて。

 あろうことか、私は案じるサーバルちゃんの首に、手を掛けた。

 「……っ!!!……っ!うぅぅぅぅ!!!」

 でも、できない。 

 できるわけがない。

 私には、できない。だって、サーバルちゃんが、好きなんだもの。

 「っ!」

 サーバルちゃんは、私が首に手が触れたと気付いて、振り返ってくれて。

 「かばん、ちゃん?」

 「!!」

 私の名前を呼ぶの。

 さらには、その瞳は、あの時と同じ。

 私を案じてくれる、優しさを内包した。

 それでいて、子どもみたいに楽し気さえ感じられた瞳で。懐かしくも思うけれど。

 「……あれ、眠いや……。えへへ。あたし、早起きし過ぎたかな?」

 「!!」

 でも途端に、その瞳は光を失っていく。

 代わりに、キラキラと、光がサーバルちゃんの身体から散っていくのを見て。

 そうであっても、精一杯、あの時と同じ笑みを浮かべて。

 ……光となって、散っていった……。

 その瞬間。

 「あぁあああああああああああああああ!!!!」

 私は、発狂するほどの悲鳴を上げた。

 こんなはずじゃなかった。こんなのは望んでいなかった。

 皆、平和で、笑い合って。

 温かい、そんな世界であって欲しかった。

 だのに、私は、セルリアンを倒す、そのために手にした力によって、皆を。

 皆を、殺してしまった……。

 嘆きと後悔、頭を巡って、気持ちも悪く。 

 どうすればいい?でも、思考は答えを見付けてはくれなかった。

 「!!!!!!」

 その時、私はハッと目を覚まして、天井を仰ぎ見ていた。

 「……はーっ!……はーっ!」

 気付いたことには、異様に息が荒く。

 周りを見ては、自室であるということは、先の光景が悪夢であると。

 そうなると、相当な悪夢を見たと思うほど。

 「……。」 

 悪夢であるなら、とりあえずと安堵に呼吸は落ち着いていく。

 落ち着いて、周辺を見れば、柔らかな朝の光が差し込んでいて。

 きっと、あんな夢を見なければ、清々しかっただろうかな。

 どうかな。

 そこの疑問はそこそこに、私はベッドを抜け出して。 

 服装を整えては、リビングへと向かう。

 「……。」 

 リビングは、静かだった。

 二人の姿を見掛けないことから。

 あの夢の光景と相まって、まさかともつい思うものの安堵はある。

 書置きがあり。 

 コノハ博士かららしく。

 朝から、食材集めをしてくるとしていて。

 ならと、ほっとしながら、私はまた、研究室に籠ることにする。

 研究室に向かい。

 いつものように、コンピューターのスイッチを入れて。

 キーボードを叩き、データを入力して、分析して……。

 時には、空っぽの水槽を見て。

 その横にある、SSDを見て、思考を巡らせていく。

 「……!」

 そうしていたら、研究室の入り口から声が掛かり。

 二人が帰ってきたと頭を上げて。

 そうなると、いよいよ食事の準備だと。

 気分転換に私は、ふっと小さく溜息をついて。

 席を立った。

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